バンコクの鉄道(下) タイ国鉄 メークロン線 服部一人
昨日のホアランポーン駅とは一転して、同じタイ国鉄でもここはのどかなローカル線である。
有名なメークロン線はバンコクの西、ウォンエンヤイ駅が出発点である。ここはバンコク市内であるが、市内を流れる大河チャオプラヤー川を渡った川向こうにある。賑やかな所だが、川を渡っただけで雰囲気はぐっと庶民的になる下町だ。東京でいえば、上野や東京駅から少し離れた隅田川のほとりの浅草が始発駅といった感じだ。
メークロン線は川をはさんで二つに分断されている。本当は1本につなげたかったらしいが、あいだのターチン川に橋を架けることができなくてこのようになった。日本でも大河の手前で鉄道が終点になることはしばしばあることだ。
メークロン線概念図
メークロン線の沿線風景はそれほど変化のあるものではない。郊外の住宅地、塩田跡、養殖池、そんなのどかな田舎の風景が続く。
ここを有名にしたのは市場と駅が同居しているような終着駅の姿である。同居というよりは、もはや混在、あるいはカオスと言ってもいい。駅の中に市場があるのか、市場の中に鉄道が突っ込んでいるのか、判別がつかない。
始発駅ウォンエンヤイ。 すでにここでもホームには露店があっていい雰囲気だが、こんなのは序の口。
ウォンエンヤイ〜マハーチャイ間は通勤通学客が比較的多く、だいたい1時間に1本程度の列車密度だ。始発駅ウォンエンヤイから乗り込んだ列車は日本製のディーゼルカー。冷房がないので、窓全開、さらに自動ドアも全開にして豪快に走る。小学生なども乗っているが、誰も危険だとか言わない。みんな慣れている。
小一時間で終点マハーチャイだが、駅の手前で列車は最徐行する。線路上を占拠する物売りたちを排除するためだ。駅構内は薄暗いが、ホームに降りたとたん、目の前に肉屋があってニワトリがぶら下がっていたりするので楽しい。
マハーチャイ駅に到着する列車。一見ただの田舎駅だが、駅構内はほとんど市場。
マハーチャイ駅。 列車が到着して3分もたたないうちにこんな感じになる。 1日に何度も撤収と復元をするので、短時間でできるように工夫されている。
マハーチャイの町はターチン川の河口に近く、海産物問屋が非常に多い。バンコクより安いので買い出しに来る人もたくさんいる。最近では有名になって、タイの旅行ガイドブックにも載っているので、観光客の姿を見かけることが多くなった。
マハーチャイ駅から歩いて数分の港まで行き、渡船に乗って対岸のバンレム駅を目指す。川を渡ると、のどかな田舎町で、対岸のマハーチャイとは時間の流れが違うようにすら感じる。
同じメークロン線でも、ここからのバンレム〜メークロン間は超閑散線区である。列車は1日にわずか4往復。2両連結のディーゼルカーが行ったり来たりするだけだ。車内もがらがらだ。バンレム駅も列車がいない時は、現役の駅なのか、廃止になった駅なのかわからないほど閑散としている。以前水害で6ヶ月ほど運行休止していたが、まぁ休止しても誰も困らないようなローカル線である。
バンレム駅に入線してくる列車。 折り返してメークロン往きとなる。 ホームには人の姿があるが、露店の人や日陰で休憩している人が多く、乗客となるのは、このうちの少しだけ。
バンレム駅を出発した列車。路面電車ではないが、未舗装の併用軌道が続くシブい風景だ。
終着メークロン駅の線路上。 もはや駅という状態ではない。 日に4往復と少ないので、マハーチャイ駅よりもっとすごいことになっている。
列車が通る時には、物売りの人たちは 「仕方ないな」 といった顔でゆっくりと片付け始める。
メークロン駅の外れの行き止まり。 この先にもやはり川があって、その手前で鉄路は終わっている。
メークロン線も、このバンレム〜マハーチャイ間は営業係数からすると、いつ廃止になってもおかしくないような気もする。タイにいる時には暇つぶしに何度も行ったが、いつ行っても楽しいところだね。
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