ミラノのトラム 昼と夜 (昼) 服部一人
訪れたのは晩秋。紅葉のトンネルを行く電車。ミラノには街路樹が植えられた美しい専用軌道がいくつもある。
あいにくの雨、まだ夕方までには時間があるのにすでに薄暗い。トラム23系統の終点Lambrateは同名の鉄道駅の小さな駅前広場に沿ってループ線が敷かれている。発車を待つ黄色い電車が静かに雨に濡れている。何枚か写真を撮ったあとで、とりあえずは乗ってみる。車内からいいポイントを探そうという算段だ。開いたドアは4枚折り戸、木製である。車内はタングステンのなごやかな光。乗ったとたん、レトロ感満載である。ヨーロッパのトラムにはよくあることだけど、終点はループになっているので運転台は片側のみ。ドアも片側にしかついていない。
出発した電車は倉庫街のような通りを少し走ったあとに大きく右折、道路中央に設けられた専用軌道に入った。線路の両側には街路樹が植えられて、折しも紅葉した木々がしっとりとした、たたずまいを見せる。
いくつかの角を曲がって次第に町の中心部へと進んでいくが、雨に濡れた窓ガラスの向こうには、しずんだ街並みに街路灯や車の明かりがにじむ。つり掛けの音を聴きながら、少しぼやけたそんな車窓風景を見ていると、ロケハンなど忘れてしまって映画を見ているように情景に浸ってしまった。
雨のLambrateを出発する電車。
23系統のもう一方の終点Piazza Fontanaは都心にありながら静かな場所。並んだ新旧のトラムには約半世紀の歳月がある。
Canon EOS5DMk2, 60D, EF17-40/4L, Macro100/2.8L, Makro-Planar50/2, Distagon35/2
ミラノのトラムは、いまだけっこうな路線長と系統を持つが、電車に乗っていると、すでに使われなくなった線路をあちこちで見かけた。また郊外に延びる路線も地下鉄の伸延に伴って廃止されたものもある。「あぁ、もう数年早く来るべきだったか....。」 毎度のこと、同じ気持ちになるが、まだまだ魅力的である。
路線の大半は連接車や現代的なLRTが軽快に走っている。しかし、いつものようにお目当ては旧型車両である。ミラノでも旧型車が走っている系統は急なカーブや幅の狭い路地があり、今どきの連接車の進入を阻んでいる。単行でガタゴト走り、カーブでは大きくオーバーハングして車輪をきしませる。これぞ路面電車の風情である。
次回は、また一段と渋い魅力的な情景が広がる「夜のトラム」をご紹介します。
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