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2013年5月 1日 (水)

英国貴婦人の残影 ミャンマー国鉄 バゴー~モーラメイン 服部一人

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イギリスが植民地向け改良したパシフィックYC型1947年製。修理を重ねながら2000年代初頭まで活躍が見られた。

パゴーは首都ヤンゴンから北東に約80キロ、幹線からの分岐駅である。ここから東へタイ国境方面に向かった終点がモーラメインである。汽車は途中のニャングハシまでを往復していた。
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鉄道に限らず、車でも飛行機でも古い乗り物が大好きな私は、それらを探してあちこち旅行してきた。きちんと保存している先進国は別として、古い物なら発展の遅れた途上国に行けば見られるかというと、そう簡単でもない。
自分の経験上、こういう物が多く見られる国には共通点がある。たとえば「かつて植民地支配を受け」「独立後に社会主義が続いた国」などは古い乗り物が温存されている場合が多い。おそらく植民地時代に旧宗主国が当時の最新の交通手段を輸入して使用し、社会主義政権の間は経済が逼迫してインフラに十分な投資ができず、古い物を使わざるを得なかった、といった事情があるのではないかと思う。

中国も、あの広大な国土にかつて数千両の汽車が動いていたし、中米のキューバも厳しい経済制裁のせいで石油が不足し、近年までサトウキビ畑で米国製の汽車が働いていた。ミャンマーも同様にアジアの中では最後まで汽車が見られた国のひとつである。
もう十数年も昔のことになるが、ミャンマーに汽車を見に行ってきた。

ヤンゴンの空港ビルは薄暗く、少し蒸し暑いのを我慢しながら入国審査の列に並んでいた。当時公定レートとヤミ両替の間には差があったが、やむなく強制両替の300ドルを替えてから市中に出る。ホテルに行く道すがら、市内バスには名古屋から送られた中古の市バスがそのままの塗装で使われていた。日本語の表記が入ったバスを異国の風景の中で見るのは不思議な感覚である。

翌朝、チャーターした車でバゴーに向かう。ガイド兼通訳を同道しての取材である。社会主義国の撮影には独特の苦労もあって、鉄道施設関係は国家保安上、基本的に撮影禁止である。本当は田舎のローカル線を撮影したからといって、何ら機密などあるわけもないのだが、これは建前であるから守らなければいけない。こういう時は筋を通して、事前に旅行社を通じて許可を取っておいた。

バゴー駅に到着し、まずは車庫に行ってみる。今日の列車の先頭に立つパシフィック630号機が出発準備に余念がない。機関助士がせっせと石炭を燃やし蒸気の圧力を上げ、車体の周りでは注油しながら念入りに各部の点検をしている。
スポーク動輪とすっきりしたボイラーまわりの、やや背の高い均整のとれたスタイルである。日本のC57も「貴婦人」という愛称で呼ばれるが、この英国貴婦人もなかなかのたたずまいだ。遠く本国を離れ、はや半世紀以上。アジアの大地に根ざしていても、すっと立つ美しい姿は決して失われてはいない。

 機関士に頼んで運転室に上げてもらう。3人の乗務員がいる空間は意外に狭く、炎の熱気で相当な暑さだ。すすや煙も容赦なく入ってくる。構内を少し動いただけでも車体は揺れ、しっかりつかまっていないと振り落とされそうだ。汽車の運転がいかに重労働かよく理解できる。
「このまま乗ってけ。」と誘われてかなり迷ったが、今回は撮影を優先して車で先回りして線路脇の田んぼで待つ。やがて表れた汽車は平坦な道とはいえ、思ったより速いスピードで目の前を走り去った。さすがはパシフィックである。英国の田園風景の中ではなく、アジアの農村を、民衆を乗せたオンボロ列車の先頭に立ち、黙々と仕事をこなす。アジアの農村で見た英国貴婦人の晴れ姿であった。


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昨今は、アウンサンスーチーさんも来日し、これからはビジネスチャンスとばかりにマスコミでも取り上げられることの多くなったミャンマー。十数年前のこの旅では、汽車の他にあちこち田舎をまわって写真を撮り歩いた。のどかな農村と穏やかなミャンマー人のことは今もよく印象に残っている。きっとミャンマーも今後大きく社会や生活が変化するだろうが、また見に行ってみたいと思っている。


Rolleiflex3.5F  Xenotar75mm/3.5,  Ricoh GR-1, 28mm/2.8,  T-MAX400, Neopan400

 

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コメント

ただただ素晴らしい。
モノクロ最高です!

onochan さま
こんにちは。いつも当ブログを見ていただいてありがとうございます。今回はちょっと古い写真ですが、プリントからスキャンしました。昨今は自分もほとんどの撮影はデジタルですが、鉄道に関しては、時々フィルムを使ってモノクロで撮っています。まだ暗室持っているので、たまにプリントしてアナログ楽しんでます。今後ともよろしくお願いします。

私も十数年前に、何回かミャンマーの鉄道撮影の旅へ行っておりますので、とても
懐かし映像です。 服部さんの去年の7月14日の記事 「甘い香りに誘われて フィリピン」 ネグロス島のサトウキビ畑の中を走る蒸気機関車も撮影しました、あの暑さや匂い、バカスが舞うキャブの中、道路の砂ぼこり、色々思い出がよみがえってきます。服部さんの海外撮影記、楽しみにしております         K.Iwamatsu 

K.Iwamatsuさん、こんにちは。
ミャンマーはいいところでしたね。日本の中古DCもたくさん走っているそうなので、久しぶりにまた行きたいですね。
アジアはヨーロッパなどと違って、鉄道と、それを利用する民衆の距離が近い感じがしますね。これがアジアの鉄道の魅力でしょうか。汽車がなくなっても、まだまだ魅力的な鉄道情景がありますね。
これからもよろしくお願いします。

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