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鬱陶しい雨空が続きますが、梅雨の合間に見る青空は、そのありがたさを実感します。
どんなに早起きしても陽はすでに昇り、長い一日が始まっているのでした。
影踏みの道
駅前の踏切を渡る道は東西に伸びており、朝な夕なゆく人々の影が躍っている。
踏切の影はいくら踏んでもどこにも逃げない。
只見線 若宮 HASSELBLAD 201F Distagon CF 50mmF4 T*
緑風のホーム
田んぼに苗の模様が描かれる頃、蛙の合唱も真っ盛りである。
朝の緩やかな緑風がゆっくりとかすめてゆく。
只見線 若宮 HASSELBLAD 201F Sonnar C 250mmF5.6 T*
眩しい朝
衣替えをした生徒たちの白いワイシャツが眩しい。
元気な笑い声がディーゼルエンジンの唸り音と混ざって空に放たれる。
只見線 会津坂下 HASSELBLAD 201F Distagon CF 50mmF4 T*
ウェールズにはたくさんの保存鉄道があります。今回の旅行で訪ねたのは、ほんの一部。他にも行ってみたいところばかりです。
ウェールズ北部の小さな鉄道をまわった今回の旅。蒸気機関車好き、ローカル線好きの私にとっては、毎日が夢のように楽しい日々でした。今回の撮影旅行のちょっとしたエピソードや舞台裏など、思いつくままに旅のあれこれについて簡単にまとめました。映画でいえば本編に対するメイキング映像みたいなもので、これから出かけられる方々のために、以下、参考になればと。
情報収集
日本出発前には、まずは情報収集です。どこを訪れるべきなのか、その鉄道の運転日、車両、タイムテーブルなど出発前に調べることは多岐あります。現代ではインターネットが活躍してくれることでしょう。イギリスの保存鉄道のほぼすべてはウエブサイトを持っています。サイトの充実ぶりには差はありますが、どの鉄道のサイトでも基本的な情報は掲示してあります。以下のサイトではイギリスの保存鉄道全般を簡単に紹介しています。
http://www.heritage-railways.com/
重要なポイントは特別運転の日程を調べることです。だいたい年に数回はガーラと呼ばれるスペシャルイベントが企画され、通常よりも多くの車両が走ります。レイルエンスージアスト(鉄道ファン)のためのガーラ、ディーゼルカーのガーラ、ノスタルジックトレインのガーラなど、鉄道によってさまざまなイベントがあります。旅行の日程が合えば、ぜひ、こうした機会に訪問すると多くの車両を目にすることができて満足感の高い旅行となります。
どの鉄道も三つ折り程度の簡単なリーフレットがあります。駅に立ち寄った際にもらいましょう。時刻表、運賃、沿線の地図など、撮影に必要な情報がコンパクトにまとまっていて、ポケットに入れて現地ですぐ見るのに最適です。これらのリーフレットはウェブサイトでPDFなどで入手できる場合も多いです。
撮影に役立つ書籍、地図について
イギリス入国後に次のような資料を購入しました。
ますはイギリス全土の鉄道地図、「RAIL MAP]。広げて見るタイプの地図です。路線網を知り、全体を把握するのに必要です。
それから本の形になった少し詳細な路線図、「RAIL ATLAS」。全駅が記載され、単線複線やトンネルなど、簡単な状況もわかります。
続いてレンタカー運転に必須の道路地図。何種類も出ているので、お好みのものを。ある程度小さな道も載っていて欲しいので、縮尺が少し大きくて大判のものを選びました。
レールマップ。保存鉄道は色分けされているので一目でわかります。
レールアトラス。路線図は眺めているだけでも楽しいです。
次に詳細な現地の地図。これはハイキング用の「EXPLORER MAP」というのがおすすめです。日本の国土地理院の地形図を見るような感じで使えます。5万分の1と2.5万分の1があり、私はより詳細な2.5万分の1を選びました。鉄道沿線の地形を知り、撮影ポイントを探すのに最適です。ハイキング用途だけあってフットパスと呼ばれる山道や遊歩道などの記載もあり、最寄りの場所から歩いて線路際まで行くのに非常に役立ちます。
(左)運転用の道路地図。
(右)エクスプローラーマップ。撮影ポイントにたどり着くには必需品。色もきれいで見やすい地図です。この地図を頼りに、トレッキング用の腕時計に内蔵されたコンパスと高度計を見ながら線路際を目指してよく歩きました。
保存鉄道の沿線は美しい自然に囲まれていますが、どこでも簡単に入れるというものでもありません。この地方特有の羊や馬が草を食んでいる草原は、ほとんどが私有地です。フットパスはこういう私有地の中を通っている道も多くありますが、これらはマナーとルールを守った上で通行が許可されているものです。たいていは牧場の柵を越えるところに手動のゲートがあり、これを自分で開けて、また必ず閉めます。このような小さなルートも正確に記載されており、また主要道のパーキングの位置も示してあって、現地で具体的な行動を取るときに役に立ちます。
あとは「RAILWAYS RESTORED」という保存鉄道の年鑑。イギリス全土の保存鉄道がすべて網羅されていて、各鉄道ごとに所在地、運行期間、車両、路線長、軌間など簡単なデータが掲載されています。現地ですぐ役に立つという書籍とは少し違いますが、今後の訪問のための基本的な資料として現地に行ったときにお求めになるのがよかろうと思います。毎年改訂版が出ているようで、彼の地での保存鉄道というものの人気と社会的認知度がわかります。
レールウェイ レストアード。数の多さにただただ感心します。
これらの資料をリバプールの大きな本屋で買いましたが、ロンドンや他の大都市でも、大きな書店ならあるでしょう。ものによってはAmazonなどにも出ているようです。鉄道関係の書籍などは、各保存鉄道の主要駅で購入するのも便利です。たいていオリジナルグッズなどを扱う売店と書籍のコーナーがあって、さまざまな鉄道関連の本が置いてあります。その品揃えは都会のちょっとした書店の鉄道関係コーナーをしのぐほどの充実ぶりです。私も気軽に立ち寄ったつもりが、つい立ち読みに熱中してしまい、あとの撮影に支障をきたすということがありました。
(左)現地の駅で購入した書籍の一部。帰りの荷物が重くて大変でした。
(右)日本語の書籍でもイギリスの保存鉄道に関するものがあります。読み物としても楽しめるので、出発前のイメージトレーニングとして、その鉄道の概要や雰囲気を知るにはとてもいいものです。
国内の移動、レンタカー
イギリスへの入国は多くがロンドンでしょうが、今回のようにウェールズ北部を訪ねる場合、ゲートシティとなるのはマンチェスターかリバプールが便利です。国内線で移動してもよし、私の場合、ロンドンに入国したその日に、鉄道を使ってビートルズで有名なリバプールまで特急で移動しました。約300キロ、2時間少しでした。こうした鉄道移動を考えている場合は「イギリス鉄道パス」(BRIT RAILPASS)が便利だと思います。イギリスの鉄道は定価でまともに買うとけっこう高いです。ヒースローの飛行場からロンドン市内に出るだけでも、ヒースローエクスプレスを使うと約21分でまことに快適、かつ快速ですが3500円以上もします。国内移動を鉄道でするつもりならレイルパスは元が取れそうな気もします。このパスは日本で購入する必要があります。事前に準備しましょう。
(左)ロンドンから到着した特急列車。リバプール・ライムストリート駅にて。
(右)鉄道パスと、おなじみトーマスクックの時刻表。
保存鉄道は公共交通機関では行きづらい田舎にあることもしばしばです。今回はリバプールの空港からレンタカーを使用しました。国際的なネットワークのレンタカー会社なら日本からネットで予約できます。この地ではレンタカーは日本よりカジュアルな感じです。お店に行って予約してある旨を伝えると、すでにタイプされた書類がでてきて、注意事項を確認してサインするだけ。パスポートと国際運転免許のコピーを預けるだけで実に簡単です。ものの5分もかからず手続きが済むと鍵を渡されて「○○番のパーキングにとめてあるから」と素っ気なく言われて、あとは乗り出すだけ。返却時も同様。空港の近くでガソリンを入れてそのまま同じ場所に駐車して鍵を返すだけ。日本のように立ち会いでボディの傷の有無を確認するなどということもしません。
ご存じのようにイギリスは日本と同じ、右ハンドルの左側通行。運転には大きな障害はないです。市街地こそ車の多さに気を使いますが、リバプールからウェールズに向かう高速道路も無料。ウェールズに入ってしまえば、のどかな田舎道で交通量はそんなに多くありません。幹線を離れるとすれ違いに困るような狭い道もときにはありますが、ウェールズは美しい土地です。風光明媚な景色を見ながらのドライブは実に快適でした。
(左)今回の旅のお供、フォード・フォーカス。
(右)ウェールズの典型的な幹線道路。交通量はさほど多くなく、北海道をドライブしてるような感覚でした。
運転マナーはおおむね良好。かなり飛ばす車もありますが、こちらが普通に走っていると、さっさと追い抜いていってくれるので気にすることはありません。少し大きな町には有料の公共駐車場、また主要道路には景色のいい場所などにパーキングが設けられているので、駐車はそちらへ。田舎道などは狭くて路駐するスペースはないし、駐車マナーはけっこういいような気がしました。保存鉄道も自動車で来るお客のために有料駐車場を駅のそばに設けている場合がほとんどです。車で撮影するにせよ、やはり1度は乗ってみたいですよね。
(左)スランベリスの駅前駐車場。みんなここに車を置いて鉄道に乗ります。
(右)ウェールズは羊毛も有名です。ここでは羊優先なのでじっと待ちます。
宿泊、食事など
ウェールズはスノードン国立公園を始め、自然の豊かな土地です。リゾートや保養地は各地にあり、観光はこの土地の重要な産業です。したがって宿泊する所はたくさんあります。だいたいが撮影旅行なら朝早くに出て、帰宅は暗くなってからということも多いでしょう。ホテルにお金をかける事も少ないかと思いますが、私も手頃なB&B(ベッド&ブレックファースト)ばかり利用しました。ネットを使って日本出発前に予約しました。質素な宿はだいたいが狭く、エレベーターもないのが普通で、時には重いトランクを持って階段や入り組んだ廊下を歩くことになります。でもホットシャワーが出て、ネットがつながれば特に不満もなし。十分です。
他にもモーテルという名の自動車旅行用の施設もあります。これはたいてい歩いて行くには不便な町はずれにあり、モダーンではあるが、いたって実用的でシンプルな内外装の建物です。部屋に2ベッドとミニキッチンが付いていることが多いです。家族で自動車旅行して食材などを持ち込んで旅をするスタイルなら安上がりにすむようにできています。こうしたところを利用するなら、オフシーズンならだいたい1万円以下で泊まれるところも多いでしょう。
(左)ポートマドックで泊まったホテル。小じんまりとして落ち着けました。
(右)ポートマドック駅のスプナーズ・カフェ。ここで何度も朝ご飯を食べました。
食事ですが、朝ご飯はWelish Breakfast(ウェールズ式朝食)で決まりです。やたらとボリュームのあるご飯ですが、1日外で撮影するにはしっかりした朝食は基本。ホテルで出てくるところもあれば、なければ外のカフェなどで同じようなものが食べられます。昼は撮影中で忙しく満足な時間が取れません。朝出発する前に近所のキオスクなどでサンドイッチやお菓子を買ってでかけます。
さて夕食ですが、これもゆっくりとディナーを楽しむということはしませんでした。ファーストフードかきちんとしたレストランならあるのですが、その中間、日本でいえば食堂や定食屋といった手頃な感じのお店はなかなか見つからないものです。旅行者なので土地勘がないだけなのかもしれませんが、夕食はもっぱらお総菜を買ってきて部屋で食べました。便利なのが「TESCO LOTUS」という全国チェーンのスーパーです。地方でも夜8時くらいまでやっていて、ここのお総菜コーナーでサラダやチーズなどといっしょにビールを買ってきて、今日撮った成果をパソコンで眺めながら食べれば、私はけっこう幸せです。
(上)スーパーの「テスコ」。これはリバプール店ですが、地方のお店は大きな駐車場があって車で行くには便利です。
(左)これがウエリッシュ・ブレックファースト。お腹いっぱいになります。
(右)「テスコ」で買った本日のディナー。イギリスはビールの種類がとても多くて、毎日利き酒大会でした。
それでもたまには暖かいおかずが食べたいと思う日もあります。特に天気が悪く寒い日には、1日終わって帰ってくると体も冷えてけっこうしんどいものです。こういうときにはケバブや中華料理のテイクアウトをよくやりました。イギリスは多民族国家です。アラブ系の人がやっているケバブ屋は地方でも見かけました。中国人は世界中どこにでもいるので、これも重宝します。
カーナーフォンにあったテイクアウト専門の中華屋。まあまあおいしかったですが、どれも似たような味でした。
撮影など、いくつか感じたこと。
駅のホームなどは他の乗客に迷惑をかけない限り、けっこう自由に撮影できます。日本のような重装備ではないにせよ、鉄道ファンとおぼしき人はよくいます。彼らを見本にして行動していれば、だいたい問題ないことでしょう。カメラをかまえていると画面に入らないように遠慮してくれる人もよくいました。にっこり笑って気持ちよく撮影しましょう。注意が必要なのは沿線での撮影です。保存鉄道の線路には全線に渡ってレール沿いに柵があります。場合によっては撮影の邪魔になることもあるのですが仕方ありません。これは通常の営業鉄道とは別のカテゴリーである保存鉄道に法律で義務付けられたものだそうです。当然ですが、この柵の中に入ってはいけません。フットパスや踏切が線路を横切る場所は通行できるようになっていて表示が出ていることもあります。指示に従って安全第一で楽しみましょう。
(左)踏切の横の看板には、「よく見て、聴いて、注意して渡れ。」と書いてあります。
(右)柵は網だったり、木製だったり、ワイヤーだったりしますが、撮影には悩ましいものです。でも仕方ありません。上手に工夫しましょう。
保存鉄道の維持運営にはお金がかかります。現地ではお金を落とすというのも大切なことだと感じます。もちろん乗車するのが基本ですが、ほかにも書籍やオリジナルグッズをおみやげに買ったり、駅のカフェで食事したり、車内販売でコーヒーを買ったりと貢献できることはいくつもあります。私は旅先でおみやげを買うことは少ないのですが、鉄道関連だとつい財布の紐がゆるみます。じっさい今こうして原稿を書いている横には駅で買ったカレンダーがかかっています。汽車の絵が描かれたワイングラスで飲む酒は、これもまたいいものです。安いワインでもなんだか楽しくなります。こうして帰国してからも良き思い出の楽しみが続きます。
(左)車内販売のメニュー。ビールもワインもあります。
(右)車内に置いてあった、汽車のレストア費用を集める寄付袋。
この地の人々は古来よりイングランドとは別の文化背景があり、ウェールズ語という言語を話します。リバプールから車を運転して来ると、ウェールズに入ったとたん道路標識も2ヶ国語となります。鉄道の看板もリーフレットもみんなバイリンガル。このウェールズ語、アルファベットを使って表記しますが、見慣れない綴りに聞き慣れない発音でまったく別の言語です。
ウェールズのナロー保存鉄道は、前身がスレート運搬鉄道だったところが多いです。かつて特産だったスレートは、今でもさまざまな場所に使われています。規則正しい方向性によって割れる特性があり、人の手作業で最大1ミリ程度の薄さまで割ることができるそうです。
CANON EOS 5DMkⅡ, 60D, EF70-200/2.8L, 17-40/4L, EF Macro100/2.8L, Makro-Planar50/2, Distagon35/2
フェアボーン鉄道
フェアボーンを出てしばらくは住宅街の脇を走ります。背後の住宅や車と汽車のスケール感が違うような、不思議な光景ですね。
フェアボーン鉄道は軌間わずかに311ミリ。たった3.2キロのミニ鉄道です。イギリスには軌間15インチ(381ミリ)以下のいわゆるミニチュア鉄道というカテゴリーの鉄道が多数あります。この大きさの鉄道の印象は、600ミリくらいのナローと比べても明らかに小さく模型的で、かといって模型の大型ライブスチームかというとそうでもない。小さいながらも本物の鉄道という感じがします。
イギリスには、こんなミニチュア鉄道だけを紹介したガイドブックもあります。フェアボーン鉄道のような独立した鉄道の他に、牧場や公園などのアトラクション、博物館の施設など、さまざまな形態があることがわかります。
フェアボーン鉄道 路線図
始発駅のフェアボーンは海の近くの小さな町。イギリス鉄道(British Railways)に隣接しています。ゲージから車両、ホームや給炭台など、どれもが全般に小ぶりですが、造りは本格的。遊園地の乗り物のような雰囲気はありません。ここから河口にできた砂州のような場所を走り、突端のフェリー乗り場、バーマスフェリー駅までを結んでいます。
バーマスフェリー駅からは河口の反対側の町バーマスまで渡し船が出ています。バーマスは海沿いの保養地として名高いところ。町は斜面に沿ってひらけ、別荘やリゾートが多く建ち並んでいます。そのような土地柄ゆえか、このフェアボーン鉄道も滞在客のアトラクションとして楽しまれているようでした。
私はナローゲージは大好きですが、この鉄道を見るまでは、この手のミニチュア鉄道は何か少しおもちゃのような気がして、そんなに関心がありませんでした。しかし実物を見てから考えが変わりました。ナローとも違う可愛らしさにあふれ、ミニチュアといえども本物の鉄道の雰囲気を合わせ持った独特の魅力があります。こんな小さな鉄道なら、ぜひうちの庭にもひとつ欲しいものだと大それたことを夢想してしまいますが、そもそも、まず庭の確保から始めないといけません。やっぱり夢ですかね。
フェアボーンで出発を待つ列車。この鉄道には4両の蒸気機関車がいますが、いずれも本物の2分の1サイズのレプリカ。本日の牽引機は懐かしのインド、ダージリンのB型サドルタンク、こちらは1978年製です。
これが本家、ダージリンヒマラヤン鉄道のBタンクです。フェアボーン鉄道のレプリカも実車の雰囲気を再現して、なかなかよくできています。
実物はB型サドルタンクですが、こちらは運転の実用性を考えてテンダー付きになっています。キャブの運転手が窮屈そうに座っているのが何ともユーモラスです。
住宅街を抜けると、あとはこんな感じの沿線風景です。海からの風が強く、草が大きくなびきます。
途中駅もありますが、ほとんど乗降はなく、こんな感じの素朴な停留所です。
終着バーマスフェリーに到着するところ。背後にバーマスの町並みが見えます。
タリシン鉄道
甲高い汽笛が森の中に響いて、汽車はドルゴッホ駅を出発して行きます。グリーンの機関車と赤い客車の組み合わせがキュート。この近くには滝があり、駅からトレッキングコースが続いています。
タリシン鉄道 路線図
ご存じ、言わずと知れたタリシン鉄道です。何が有名かといえば、イギリスで最初の、と言うか世界で最初の成功した保存鉄道です。1951年からといいますから実に60年以上前です。今でこそ保存鉄道王国と言えるイギリスですが、当時はまだ保存鉄道に対する社会的認知も熟成されていなかったことでしょう。そんな中での先駆者としての偉大なムーブメントだったと思います。ここも前身は、ウェールズによくあるスレート運搬用の鉄道でした。全長は12キロ弱。軌間は2フィート3インチ(686ミリ)。珍しいゲージでイギリス国内にも、このゲージを採用する鉄道はあと3つしかないそうです。
タリシン鉄道が保存鉄道の先駆けとして幸いだったことは、前身の鉄道が1950年に休止後、ただちに保存組織が立ち上げられて活動を開始したことです。翌年の1951年に再スタートを切るわけですが、鉄道廃止後、長期間放置されなかったので線路や施設の荒廃が比較的少なかったようです。
私好みの非常に魅力的な鉄道であることは訪問前からわかっていたことですが、今回は旅行期間の関係もあって、残念ながらちょっと立ち寄って垣間見るだけ。始発駅のタフィン・ワーフと途中のドルゴッホで撮影しただけでした。そんなわずかな時間の訪問でも、この鉄道のすばらしさは感じられます。可愛い車両といい、なだらかな牧場の中を走る沿線風景といい、じっくりと時間をかけて乗車と撮影を楽しみたいところです。今回は軽くロケハンと自分に言い聞かせて、次の訪問を強く祈念して、ここをあとにしたのでした。
タフィン・ワーフ駅で発車を待つ汽車。構内のすぐ後ろをイギリス鉄道(British Railways)が通っており、画面左奥に曲がっていく線路の先でスレートの積み替えをしていました。
本日の機関車は「エドワード・トーマス」君。チョロQのような凝縮された車体の可愛らしさがあります。1921年製で保存鉄道として開業した1951年に、近隣の別の鉱山鉄道から購入されました。
この鉄道のもうひとつの見所は「ナローゲージ博物館」。タフィン・ワーフの駅舎の中にあります。タリシン鉄道だけでなく、ウェールズにかつて存在したスレートや炭鉱などのナローゲージの車両が展示してあります。左は1897年、右は1891年製造で、ともにウェールズの鉱山で働いていたものです。
ドルゴッホ駅には小さな給水塔があり、汽車はここで10分ほどの停車をして出発準備をします。駅のまわりに人家はなく、森が広がります。小川の流れる音、木の葉が風に揺れる音、そして蒸気の息づかいだけが聞こえます。
CANON EOS 5DMkⅡ, 60D, EF17-40/4L, EF100/2.8L, Distagon35/2
前回6月7日に引き続き、紀州鉄道に5年前まで走っていた奇跡のような古めかしい気動車、キハ603がいた光景をご覧いただきます。
今回は、生活道路のように溶け込んでいる線路の表情もご一緒に。
のんびりゆこう
そよ風に吹かれながらゆっくりと走ってゆく。
その姿を目に焼き付けた初夏の日。
紀州鉄道 御坊-学門 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
草いきれ
列車が行ってしまうと、しばしの静寂が訪れる。
生い茂る草が夏に向って伸びていく。
紀州鉄道 市役所前-西御坊 HASSELBLAD 500CM Sonnar C 250mmF5.6 T*
軒先のみち
庭先は線路だった。
なんと生活臭が漂っていることか・・・
紀州鉄道 市役所前-西御坊 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
結局その年の10月にキハ603は引退することになり、最後にもう一目見たくて訪れることにしました。
生涯でたったの二回しか会わなかったのに、何故か今でもそのすすけた温もりが頭にこびりついて離れません。
私にとってとても忘れ難い光景・・・それは10月頃に“その3”でご覧いただこうと思っています。
訪れた日は、雨がしとしとと降り続く悪天候。けっこう肌寒い一日でした。三脚を立てカメラをかまえ、傘を差しながら辛抱強く列車を待ちます。傘はカメラを濡らさないため。自分は半分以上傘からはみ出て背中はびっしょり濡れてしまいました。それでも谷の向こうから汽笛が聞こえ、汽車が近づく気配がすると元気が出てくるものです。
本日の汽車は823号、1902年ベイヤーピーコック製。開業に際して導入された、この鉄道生粋のオリジナル車両です。客車はハンガリー製で、ここに来てからオーバーホールの上、真空ブレーキの装着や内装の取り替えなどを施しています。
ウエルシュプール&スランフェア鉄道はイギリスでは珍しい、軌間2フィート6インチ(762ミリ)のナローゲージです。日本ではナローといえば762ミリがポピュラーだったのでなじみ深いものですが、この地では非常に少ない軌間です。前身は1903年開業の私鉄で、このあたりの地域開発のために、おもに農産物などの貨物輸送を目的として建設されました。当初から762ミリのナローゲージでした。一時期、英国鉄道(British Railways)の管轄になったこともありましたが、1931年には旅客営業廃止で貨物専業に。その貨物輸送もナローゲージがあだとなり、軌間が異なる本線と接続していたウエルシュプールで貨物の積み替えなどが必要で、結局1956年には全面的に廃止になってしまいます。
地方鉄道としては、あまり芳しくない結果に終わったのですが、それから保存鉄道として再起するのは非常に迅速でした。多くのボランティアが建設に携わり、British Railwaysから路線のリースを受ける許可も出て、1963年にウエルシュプール&スランフェア鉄道として復活します。当初は途中駅のキャッスル・カレイ二オンまででしたが、その後1981年に現在の終点ウエルシュプール・レイベンスクエアーまで開通します。全長約14キロですが、バンウィバレーと呼ばれる小さな渓谷に沿って線路が敷かれ、なだらかな丘陵地帯の里山を走る美しい沿線風景です。
この鉄道の特色は、世界中のさまざまな国から車両を集めていることです。軌間762ミリがイギリスでは珍しいので、国内での調達に限界があることが理由ですが、その結果、国際色豊かな車両のバラエティーが揃いました。出自はオーストリア、ルーマニア、ハンガリー、台湾、はてはアンチグア、シェラレオネといった珍しい国からも集められました。生まれも育ちもばらばらの国から来た車両たちですが、今ではウエルシュプール&スランフェア鉄道にすっかりなじみ、ひとつの雰囲気をかもし出している感じがして、とても好感が持てます。
ウエルシュプール&スランフェア鉄道 路線図
スランフェア・カレイ二オン駅に到着した列車。このあと機回しをしてウエルシュプール・レイベンスクエアーに向けて発車準備です。
スランフェア・カレイ二オン駅で出発を待つ列車。となりの黄色の機関車は台湾の製糖工場から2004年にやってきたハイパワーのDLです。
蒸気機関車以外にも、多彩な車両が揃っています。
上段右左 何となく装甲車のような軍用車両の雰囲気があるDLですが、共にイギリス海軍の補給基地で働いていたそうです。なるほどね。
下段左 オーストリアのチラタール鉄道から来た木造古典客車。
下段右 ハンガリー製の客車で、ここに来る前はスロバキアの森林鉄道で働いていました。
雨が降って気温が下がったおかげで、蒸気や煙が鮮明に見えるのはラッキーでした。渓谷沿いに走るため、いくつかの小さな鉄橋があります。
ウエルシュプール・レイベンスクエアー駅に到着後、折り返しスランフェア・カレイ二オンに戻る列車。以前はここから先、市街地を通って本線のウエルシュプール駅まで接続していました。保存鉄道として復活する際、市街地の用地買収は困難なため接続は見送られましたが、現在、別のルートを通って本線に接続するための協議が続けられているということです。
ウエルシュプール・レイベンスクエアー駅で折り返すときには、給水、火床整理などをおこない、汽車もつかの間の休憩時間。乗務員たちもティータイム。
2両の短い編成を小型機関車が牽引する、このコンパクトな感じが軽便鉄道っぽい雰囲気満点で数寄者にはたまりません。
ウェルシュ・ハイランド鉄道のような、(ナローとしては)大型機が長大編成を引くというのもすばらしく魅力的ですが、この鉄道にはやはり軽便はこうでなくっちゃと共感できる可愛らしさがあります。
途中、何カ所かの踏切がありますが、もとより交通量の多くない田舎道、警報器などは無く、踏切のたびに汽車は一旦停止し、乗務員が降りてきて旗を振りながら安全確認して通過します。何とも浮き世離れしたゆったりとした風情です。
本日の最終列車が霧雨にかすむ森の中に去って行く。あとに残る白煙がゆっくりとたなびいて、やがて消えて行く。
はるばる異国まで来て終日雨に降られた寒い一日でしたが、こういう鉄道情景を見たかったんだと思わせる雰囲気が、このウエルシュプール&スランフェア鉄道にはありました。美しい沿線風景の中で軽便鉄道らしい風情を満喫できて、とても幸せな一日でした。
CANON EOS 5DMkⅡ, 60D, EF70-200/2.8L, 17-40/4L, EF Macro100/2.8L, Makro-Planar50/2, Distagon35/2
当ブログもつつがなく2年を終え、3年目に入りました。今まで訪ねた鉄道、まだ見ぬ鉄道に想いは尽きません。日本のみならず世界のあちこちには、ぜひとも、この目で見ておきたい鉄道が数多くあります。
わたしの3大興味、「蒸気機関車」「ローカル線」「路面電車」を訪ねて旅行記を続けます。これからもどうぞよろしくお願いします。
ケイ シダン駅で停車中に、主人といっしょに乗車したワンちゃんの記念写真を撮ろうとしますが、「ゆず」と違って、なかなかおとなしくポーズをとってくれません。
スランベリス湖畔鉄道は、連載の1,2回目で紹介したウェルシュ・ハイランド鉄道のカーナーフォンの町から車で30分程度、パダーン湖という細長い湖に沿って走る全長わずかに4キロ、軌間597ミリのナローゲージの小さな鉄道です。この鉄道も元々は特産のスレートを運び出すためのものでしたが、1961年に廃止になっています。その当時は軌間4フィート(1219ミリ)だったそうです。
スランベリス湖畔鉄道がある一帯はスノードン国立公園に指定され、スランベリスは有名なスノードン山への登山口でもあるので風光明媚なリゾートとして人気があります。それゆえ廃止後に観光鉄道として再起することになりました。保存鉄道として復活するにあたり、近隣のディノウィック スレート鉱山で働いていた、可愛らしいハンスレ製の蒸気機関車を使用してナローゲージとして1971年に再出発しました。
運行は基本的には往復乗車を楽しむもので、おだやかな湖を眺めながら汽車に揺られ、約1時間の旅です。往復8キロ足らずの行程に1時間とは、ずいぶんとゆっくりしたスピードだと思われるでしょうが、駅で停車している時間が長いのです。
スランベリスから乗車すると終点のペンシンまで、まずはノンストップで走り、復路ケイ シダン駅にて約15分ほど観光停車します。駅はすぐ目の前が湖でピクニックサイトがあります。人々はつかのま散策したり、記念写真を撮ったりと停車時間を楽しみ、再び乗車します。次のギルファ ディ駅でも、給炭などでやはり20分ほど停まります。こうして1時間かけて戻ってくるのです。
スランベリス湖畔鉄道 路線図
スランベリス駅で出発を待つ列車。機関車は典型的なハンスレ製の産業用小型蒸気機関車ですが、こういうきれいな車体色だと遊園地の列車のようで、可愛らしさが一層引き立ちます。1889年製造のオールドタイマーですが、1971年にリビルトされています。
スランベリス駅を出発した列車は牧草地の中を横切り、次のギルファ ディからはずっと湖畔に沿って走ります。
終点ペンシンでは機回し線を使って機関車の付け替えをします。
客車はグリーンに塗られ、内装はすべて木製です。
復路ギルファ ディ駅にて、給炭、給水、火床整理で停車中。ここギルファ ディには、もとディノウィック スレート鉱山の施設を利用した国立スレート博物館があり、観光地として沿線ではもっとも活気があります。
これがスレート鉱山です。国立スレート博物館の野外展示として、鉱山からの運び出し用のインクラインが復元保存されています。
CANON EOS 5DMkⅡ, 60D, 17-40/4L, Makro-Planar50/2, Distagon35/2
みなさまに支えられて早二年、いつもご覧いただきましてありがとうございます。
6月1日写真の日。東京都心は好天に恵まれ、私の鉄道趣味の原点でもある懐かしの地 品川 へ訪れました。品川-田町駅間の大規模な再開発工事は、順調に進んでいるようです。
かつての品川客車区・東京機関区の跡地に新しく建設された車両基地が使用され始め、役目を終えた田町車両センター(旧田町電車区)の解体がいよいよ開始されました。
山手・京浜東北・東海道本線(上り)の海側への線路移設に伴い、品川駅構内もホームを新設して大きく姿を変えており、これで往年の巨大車両基地の面影は消えゆくことになります。
さる6月3日には、JR東日本より山手線品川-田町駅間に新駅を設置すると正式に発表があり、大広場や吹き抜けのある開放感あふれる新駅のイメージイラストも公開されました。
すでに再開発が終わった品川駅東口。当時を偲ぶものは何ひとつ残っていないといっていい。(写真右上) 解体が進む田町車両センター。写真左奥に新駅が誕生する。(写真上) ホームが新設されている品川駅構内。(写真下) 撮影:2014.6.1 Nikon Df 16mm 24-70mm
2020年の東京五輪・パラリンピックの開催には、様変わりした新しい東京の玄関口となる品川ステーションがお目見えすることでしょう。
最後に学生時代、私が心をこめて記録し続けた品川の懐かしい写真をご覧いただきます。
田町電車区の車町群線に憩う113・153・155系たち。DD13が入れ換え作業をしている後ろには、20系の姿が見える。新幹線は0系オンリー。品川駅後方には京急の1000系が遠望できる。(写真左上)
品川田町界隈を一望できるこの場所はいい距離感で好きだった。お召編成用として廃車を免れた4両の157系が入れ換えで動き出したところを撮影できた貴重な1枚。(写真左下)
撮影:1979.7.23 Canon EF FD100-200mm F5.6 S.C コダクローム64
紀勢本線の御坊駅片隅の小さなホームから、西御坊駅までのわずか2.7Kmを結ぶ紀州鉄道。そこをかつてトコトコ走っていたキハ603。
何とも言い難い風情と郷愁を振りまきながら、5年前に静かに消えていったその気動車がいた光景。
訪れたのはたったの二回でした。一回目は梅雨の合間の蒸し暑くも爽やかな頃。そう、季節を飛び越えて夏がやってきたような、ちょうど今年の初夏にどこか似ていました。
恥ずかしながら紀州鉄道自体の存在は知っているようで知らなかったのが正直なところですが、未だに古ぼけた気動車が走っていることを知り、無性に撮りたくなったのです。
ブログ二周年の節目に、確かに存在していたこの小さな気動車をご覧いただきたいと思います。
これからも引き続きお付き合いいただければ幸いです。
ちいさな旅
古い気動車の窓は、上は楕円で下が角型。子供の頃、山型食パンの断面に似ているなぁと思っていた。
単純な構造としながらも、少しでも外光を取り入れるための機能美なのかもしれない。
紀州鉄道車内 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
年輪
前身の御坊臨港鉄道が設立されたのが1928年、その後1973年に現在の紀州鉄道に買収されたかたちだが、その経営陣は旧磐梯急行電鉄(沼尻鉄道)出身らしい。1960年生まれのキハ603は元大分交通の車輛で、紀州鉄道には1975年にやってきたそう。
ベテラン運転士さんとの一コマ。
紀州鉄道 西御坊 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
街の顔
踏切のすぐ脇にある穴倉が何と駅の入り口だった。
今は終点となった西御坊駅は完全に街に同化している。1989年までは日高川へ向かう途中駅だった。
紀州鉄道 西御坊 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
雨雲去って
沿線を歩いていると、線路がとても身近に感じる。
水辺にかかる小さな鉄橋と踏切が箱庭のよう。
紀州鉄道 御坊-学門 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
梅雨晴れの散歩道
陽が傾くのを待っていたかのように、散歩に繰り出す。
普段見慣れないよそ者に、少し人見知りしているのだろうか。
紀州鉄道 御坊-学門 HASSELBLAD 500CM Distagon CF 50mmF4 T*
次回6月17日に続きます。
ブログを始めてみて、撮影スタイルや趣味活動の上で何か良い変化のようなものがあったか。
深川 うめさんは作品の傾向がすごく変わったよね? いままでにない車両中心の写真も増えたし、ブログがなかったらやってないですよね?
梅村 私の写真が変わった?(笑)これまでも行けば少しは撮ってはいたのですが・・・。
深川 行けばたしかに撮るけど、写真展には出さないですよね? ブログがあるからさらに力が入っていますよね?
梅村 ブログがあると思うと気合が違うもの。それと、とにかくデジタルに依るところは大きいなぁ。フイルムのままだったらあんなに撮らないし、できないこと....。デジタルになり、ブログを始めていなかったら、今こんなに鉄道は撮っていなかったと思うので、その意味ではブログに感謝しているし、逆に定期的なUPに苦しんでもいる。
服部 まぁ僕としては月に3回順番が回ってきて、それに向けてきちんと写真の整理しないといけないので、これはいいことだと思う。今までは撮影に行ってもちゃんとまとめないで、撮りっぱなしということもしばしばあったので。
太和田 自分は鉄道写真を全く撮っていなかったが、撮るようになったよね。仕事でシャッターを切っているので(写真を撮るという意味では)満足してる部分があったと思うけど、(鉄道写真は)ほんと撮っていなかった。
私は仕事でフイルムを使うこともあるが、プライベートのブログはデジタル一辺倒。しかしRawデータで撮って現像するなどフイルム的なデータの扱いにはこだわっている。
梅村 写真を仕事にしていると、正直それ以上写真を見たくない時期があった。
ブログのおかげで、写真を楽しむ感覚を取り戻したというか。
伊勢 仕事で疲れてドロドロになっても、ブログがあると思うと休日は朝早くから頑張ってしまうよね。
これからも淡々と、そしてコツコツと、ブログ「現代鉄道写真研究所」は続けていきたいと思っているが、今後の展望や各メンバーの抱負など。またブログ以外にレイル・オンとしての活動の可能性など。
梅村 これからも車両や駅の色の世界、地域としては北海道を撮り続けられたら嬉しい。それと、昨年のクリスマストレインのような童話的な作品も作っていけたらいいなぁと思う。
伊勢 あと何年か分からないけど、ゆずが元気なうちは今のゆず路線で行きたい。合間に音楽の話やよもやま話を織り込めればいいと思う。マンネリ化するかもしれないけどね・・・。
深川 自分の作品づくりの発表手段としてのブログだから、今のスタイルを変えるつもりはない。今後もフイルム・・・というよりも6×6で撮影したいし、今のところデジカメを使う予定はないかな。ブログを始めてからフイルム消費量は増えたね。今まで行かないような時にブログのために撮影するようになった。
太和田 新幹線ランドスケープシリーズに傾注している。日本の代表的な都市を結ぶ東京-新大阪にこだわっていきたい。今後、東北も山陽も撮るつもりはないですね。身近の鉄道はしばらく撮っていないが、視点を変えて街のスナップの延長線上で人物を絡めて撮ってみたい。常に80点以上を目指したいな。
デジタルは正直、楽。深川さんも踏み込めばフイルム使用量が減るかもね。
服部 ブログは始めたからには休止せずにできるだけ長く続けたい。10年、15年と続ければ古いものは貴重になるよね。(ブログは)その性格として長期間継続した方がおもしろいと思う。僕の記事はこれからも「蒸気機関車」「ローカル線」「路面電車」の3大咄をネタにした旅行記ものを中心にしていきます。
濱島 臨時列車的にブログに参加しているレベルですが、時間を見つけてはライフワーク的に撮影を行っているんですよ(笑)。
伊勢 今後のことだけど個人的方向性だけでなく、グループとしての何かは考えてる?
深川 700回記念とか1000回記念とかで、何かイベント的な....。
服部 ブログと連動させた他のメディアによる活動への期待ですね。
深川 ぜひブログだけじゃなくて、メンバー・個人問わず写真展や出版も視野に入れたい。特に写真展はやりたい。
服部 僕も深川さんと一緒でリアルな写真展に強いこだわりがある。デジタルやネットの時代になって、以前より生の写真展により強い興味が湧いている。しかし写真展ひとつやるのはけっこうなエネルギーがいってたいへん。それだけ強くて切実なモチベーションが必要。(今の時代に写真展をやる)意義や価値が見出せないと、わざわざできない。
濱島 今まで皆で集まっていろいろ考えた結果としてのブログですが、ブログだけの展開ではあまり発展は望めないように思います。かといって、時間が無いなかで何ができるかって難しいんですけど。
伊勢 イベントはわざわざ来てもらうので、忙しい中、来る人のことを考えなければ。
服部 たしかに、見に来てくれる人の側から考えても、Webでイメージは見られるのに、わざわざ足を運ぼうという気持ちになるには、何か行きたくなるような仕掛けが必要。次に写真展やることがあったら、過去にレイル・オンがやってきた写真展の形態とは違った、ネット時代ならではの展示方法を考えたい。写真展はいつか必ずやりたい。グループとしてのチャレンジになる。伊勢さんもかつては「写真展は音楽で言えばライブのようなもので、CDとは違った生の良さがある。」というような意味のことを強調していたような気がするけど....。
伊勢 なんでだろ、自分に体力がないのかな?
服部 今は仕事が忙しすぎるから。また状況が変われば考えも変化するかもよ。そのためにもブログを途切れさせず継続しましょう。
伊勢 あとはブログの評価も気にしなくてはね。数年は今のスタイルを続けるとしても、2年経過した今年は少しトーンが落ちていない?
深川 写真展は来場者の生の声が聞けるけど、Webは双方向性と言いながら、実際にはどんな人がどのように見てくれているのか、わかりにくい。ブログは一方通行。コメントだけではわからないと思う。内輪できちんと検証することが必要。
伊勢 セルフチェックが大切だよね。
服部 Webであれ、生のイベントであれ、見てくれる人がいるから作品の発表というのは成り立つわけだけど、見る側からしたらどういうものを期待しているんだろう?
伊勢 音楽の世界で例えると、アーティストの定番ものが進化していくことをファンは期待しているんだよね。だから今までの作風やキャラクターを大胆に路線変更して、新しいことをやると違和感を感じる人も出てくる。当面、僕たちは古い写真じゃなくて、新作を発表し続けることだと思う。歌手は、過去にメジャーなヒット曲のひとつでもあれば、その曲を歌えばファンは懐かしんで、昔は良かったねと受け入れてくれる。自分たちはそういう楽しみはもうちょっと後にとっておいて、皆が年老いたら、過去の名(迷)作を出して懐かしさで盛り上がろうよ。(笑)
今はもちろんまだそこまでいってないし、現役のつもり。周りも新作を期待してくれていると思う。
レイル・オンはグループでやっていますが、撮影はそれぞれ単独で出かけますし、皆が一同に顔を合わせる機会は決して多くありません。そのためこうやって集まると、話はとめどなく広がり、時間はあっという間に過ぎていきました。これからもレイル・オンの「現代鉄道写真研究所」を今まで同様、どうぞよろしくお願いします。
服部一人 「 夜汽車の旅 」 2013.11.5
梅村貴子 「 Rail-On Merry Christmas 北国の赤鼻の・・・ 」 2013.12.25
深川俊一郎 「 雪中紅 」 遥かなる旅路-光る秋 より 2013.11.13
太和田光一郎 「 新幹線ランドスケープ 」 2013.2.10
濱島 栄 「 NightWalker」
写真展会場 「 とっておきの切符2 」 1991年 渋谷 ドイフォトプラザ
伊勢新一郎 「 ゆずとカメラとAOR 」
集合写真 「 相鉄ロマン 」 写真展 1998年相鉄ギャラリー(みんな若いですなぁ)
それでは、この2年間に発表した中から、各メンバーの印象に残った記事を自薦他薦を問わずいくつか・・・。 あまり手前味噌になるといけないので、簡単にサラッと。(笑)
服部 太和田さんの新幹線ランドスケープは、日本の縮図を見るような社会派鉄道写真だと思う。出張の行き帰りにいつも撮っているのは、本当にご苦労さまです。流れるような車窓風景に目をこらし、シャッターチャンスに備える集中力がすごいと思う。10年から20年位撮り続けると、きっと良いものができるだろうね。
伊勢 日本の定点撮影のような感じだね。
梅村 写っているものに考えさせられるよね。
伊勢 新幹線で向きはどちらを撮るの?
太和田 大阪行きは海側、東京行きは山側。
梅村 1回で何カット位?
太和田 600カット位、ダメなものはその場で消す。
深川 太和田さんの「滝上り」の写真。それと新幹線ランドスケープのトラックが並んでいる写真がいかにも太平洋ベルト地帯を走っている新幹線を象徴しているなと思った。
太和田 実は、あれはあわてて横位置で撮っていて、あとで縦にトリムしている。後にタテで撮り直したけど、トラックが歯抜けになってしまって同じものはとうとう撮れなかった。
梅村 太和田さんの今回のTGVランドスケープのTGVの先頭を写しとめたのは、あれはどうやって?。
太和田 秒5コマで写して偶然撮れてしまった。線路の間があいていたのが幸いした。
伊勢 一連の組みで最初のところ、霧の中に太陽の予感を感じる写真が良かったよね。
梅村 深川さんの6×6のシリーズはいつも非常に安定していて、素晴らしい。私も北海道が好きで、よく撮りに行くけど、深川さんは北海道の大先輩。石勝線、紅葉と雪の写真が好き。フィルムカメラのハッセルで頑張っているのはすごいと思う。ただただ尊敬です。
深川 撮って現像してスキャンしてという結構手間なプロセスですが・・・。
太和田 深川さんの作品は降りしきる雪の中でも、いつも6×6判で一枚撮ってそれがすべて。露出をバラすこともできない。決定的瞬間にすべてをかけてますね。特に印象に残っているのは「白い隧道」「深雪の駅」。
伊勢 深川さんのお地蔵さんの写真、さりげなくて陰鬱にならず、ほのぼのとしていて好きです。あと、長時間露光の光跡が水面に反射しているブルーの写真。
深川 ああ、それは「夕月夜」。1周年特別企画のときに出したものです。
服部 あと深川さんには、昔のコダクロームの作品をまた時折発表してほしい。埋もれている秀作がきっとたくさんあるでしょう。例の昔の旧型客車の作品のような。
深川 あの東北本線の旧型客車は、夏の終わりの自分の気持ちを表現した30年前の写真。
梅村 深川さんの文章、あの感じ、情緒的・詩的なことば、イメージが膨らむね。ホント、ロマンチスト!
深川 あれは以前、只見の写真集を出したときに、作品にコメントを書いた流れを引きずっているかも。
梅村 服部さんは海外記事がいつも読んでいて面白い。国内記事も緻密な構図や人間の位置、計算されつくしている。撮れそうで撮れない写真。それとあの渋いトーンは、私には出せない色。(色が主体の私には)私があれをやったら何もなくなってしまう(笑)。
伊勢 スイスの登山鉄道の連載は、天気の良い日に山に登っていく旅の良さが伝わってくる。
服部 読んだ人が旅行に行った気分を味わってもらえれば成功だと思っている。
伊勢 地図も入っていて、わかりやすい記事だったね。服部 年に1度、ヨーロッパやアメリカの小さな鉄道を訪ねるのを楽しみにしていて、今回はイギリスを全10回の予定で連載してます。
伊勢 服部さんのTOKYO RAILWAYSの時の上野駅の24系25型のあの色彩、あの光線、凄かったね。
服部 あれは上野駅の持つ独特なライティングの妙かな。マクロプラナー50ミリの描写力が良かったからじゃないかな(笑)
伊勢 濱島君の中では開放で撮ったネット越しの写真が良かったね。あと一周年記念のときの黒フチの写真がいいね。
太和田 濱ちゃんは、昨年の鉄道の日の「時」のラストの一枚で使ったヘッドライトの終着駅の写真が好き。
服部 梅さんは、やはり色の世界。流れる色と光はきれいだね。
伊勢 僕は、「雨もよう」が一番気に入っている。(かつての鉄道ファン写真コンクールの)金賞作品「雨もようpart Ⅱ」だね。とくに最後の写真が良かった。ただ1枚目の写真のガラスのキズが・・・。あとモノクロのレインボーブリッジの写真もまるでチューブの中にいるようで感動しました。
太和田 梅さんの作品では、北海道の白樺のDD51の作品が印象に残っている。
深川 印象に残っている写真は、冬の音威子府の青空の踏切かな。
深川 伊勢さんのは、SL夢幻号、伊勢さんの昔のイメージをそのまま現代版にした感じ。それと、蒲原鉄道でしょうか。つり革の中にゆずが入っている写真の画面構成に感心しましたね。
伊勢 自分の作品の中では、物語を作るものと、ただ散歩しました的なものと2種類あって、物語のときの方が気合が入っている。SL夢幻号も車内からの写真は別に熱塩で撮ったものと組んでいます。「春よ来い」も力を入れました。
服部 伊勢さんは唯一ひとつのテーマで通している。犬と鉄道を組み合わせて撮っている人は、他にはまずいないでしょう。これを鉄道写真というべきか、犬の写真というべきか、まぁカテゴリーはどうでもいいけど、これからも愛情のこもった作品を発表していってください。
濱島 伊勢さん作品は先々の持続性を見据えてのコンセプト(生体を起用等)だなあ、と感じます。
梅村 よくゆずが撮り手の思った所にじっとしているよね。伊勢さんもすごいけど、ゆずもすごい(笑)。いつもゆずがいい方向を向いている。「あっち向け~」って言うの?
伊勢 ゆずは日本語が通じているみたい。そして連写するのみ。
太和田 伊勢さんのスワローエンゼル、モノクロ作品の少ない中、モノクロをベースにキハだけに色を残しているあの写真は、特に印象的でしたね。
服部 あとは、AORの音楽記事をぜひ続けてほしい。今の年代にならなければ書けない味わい深い文章だし、ゆずのブログの間にAORを入れることで、アクセントにもなるし、伊勢さんのパーソナリティが際立つよね。
梅村 お正月の富士山の写真、この色も独特。
伊勢 元旦の写真以外は、大滝詠一さんが亡くなっているので、自分の中では喪中なんだ。だから色調を押さえている。
大滝詠一さん世代の私たち…、ちょっとしんみりしたところで、今回はここまで。
気を取り直して次回、6月5日に続きます。
掲載写真 上から
太和田光一郎 「 TOKYO RAILWAY (滝上り) 」 2013.11.21
「 新幹線ランドスケープ 」 2013.12.7
深川俊一郎 「 白い隧道 」 2013.2.12
「 夕月夜 」 奥会津より 特別編 2013.6.4
服部一人 「 スイスの小さな鉄道 ユングフラウ鉄道 」 2013.2.26
「 TOKYO RAILWAYS -ターミナル- 」 2012.10.22
濱島 栄 「 Night Walker 」 2012.7.24
「時」 鉄道の日 記念企画より 2013.10.14
梅村貴子 「 LongDistance -DD51 秋に詠う- 」 2013.11.9
「 LongDistance -Blue SKY Blue- 」 2014.2.28
伊勢新一郎 「 ゆずと行く・・ ちょっとひといき」 2012.7.3
「 ゆずと行く・・ 悲しきスワローエンジェル 」 2014.1.23
お陰様でこの「現代鉄道写真研究所」も6月1日で、はや2周年となりました。このあいだ熱心にご覧いただいた皆さまには、レイル・オン一同より心から厚くお礼申し上げます。皆さまの見てくださっている気持ちが何よりの継続の力となっています。ありがとうございます。
古くからのお仲間の皆さんはご存じのことですが、レイル・オンは1990年にメンバーの伊勢の提唱によって発足した鉄道写真家のグループです。1990年より「とっておきの切符」と題する写真展を中心に活動を続けてきました。
当初はメンバーのみのグループ展でしたが、90年代半ばから仲間のレールファンにも声をかけ、「現代鉄道写真抄」という名で数十人が参加するグループ展を企画するなど、プロデューサー的な活動も行いました。活発な活動は2000年代初頭までに十数回の写真展の実績を残しました。
写真展のみならず、ネコ・パブリッシングのレイルマガジン誌には、かつて「現代鉄道写真研究所」というタイトルで1年間の連載をしていたこともありました。当ブログの名前は、この時の連載から取っています。
その後、メンバーが働き盛りの年代になり、公私ともに忙しくなり始めたこともあり、グループとしての活動はしばらくお休みせざるを得ませんでした。そんなに長く休むつもりではなかったのですが、いったん休止したものは、なかなか腰を上げるのが重かったようです。気がつけば10年以上、その間に時代も、写真を取り巻く状況も大きく変化していました。メンバーの間で気運が高まり、活動の再開として始めたのがブログ「現代鉄道写真研究所」です。ブログ開設2周年を記念して、今までの2年間をふり返る座談会を企画しました。今回から3回に分けて開設2周年記念特別企画としてお送りします。
(座談会 2014年4月都内某所にて)
10年以上の休止期間を経て、レイル・オンとしての活動再開に際して、なぜ以前の写真展ではなくブログという方法で始めたのか。
伊勢 一番思うところは、いままでのように会場借りて大げさにと言うか、お金や時間をかけてやるのはたいへんだし、今はもっと手軽にできるブログを活用して作品発表できる方法があるので、しばらく休んでたということもあるし、そういう形で再スタートしたかった。
服部 それは、現状では写真展ができないから、2番目の簡易的な手段としてのブログなのでしょうか?
伊勢 いやむしろ、一番やりたかったことで、こまかく積み上げたいという思いがあった。写真展では1年に1回で数点しか発表できないしね。
深川 私は反対派というわけではないけれど、ブログを前提とした作品づくりと、発表手段としてのブログとして考えたとき、私は後者のほうで、たとえばいつ全倍に伸ばしてもいいように以前と同じくフイルム撮影のスタイルで取り組んでいる。しかし土門拳先生が筑豊の子供たちのときにザラ紙で広く多くに人に見て欲しいというのがあったように、ブログは身近なところで多くの人に見ていただける。それに自分自身のトライアルもできているし、否定的に考えては面白くないので、前向きに捉えています。
伊勢 ネットに発表するって言うと、盗られちゃうとか、安売りしちゃうとか消耗してしまうとか、それと世間のHPとかブログとかって、割と早く息切れというかネタ切れして終わっている。うちもそうならないか考える時がある。マンネリ化していないかとか、ずっと続けられるのかなって。
服部 自分たちがブログを始めることになったわけですが、それぞれ好みでよく見るブログとかありますか?
伊勢 鉄道ものでは1960年代の地方私鉄のものとか、2、3好きなブログがあって癒されたり刺激されたりしている。動物関係では、もちろんデジタル岩合もみています。スライドショーで見られるのもいいですね。
服部 地方私鉄のものは僕も見ています。
1994年「東京鉄道ものがたり」より K.Tawada
太和田 RM誌の今日の1枚など、いい写真がホントたくさん発表されていて参考になります。あれは勉強になるね。アマチュアの方々の作品がいますごい。まあ、自分で撮るときはそういう風には撮らないんだけど。
鉄道から離れたところではカメラ雑誌を毎月見ている中で、梅佳代さん、独特なスナップ、あそこまでの観察力で撮れるのすごいと思う。
伊勢 RM誌のは僕も見てる。ブログを始めてから写真・鉄道雑誌を毎月全部見るようになったよ。
梅村 他の人のブログは情報源として見ることは多いけれど、必ず見るサイト、となると「Rail Café」さんといくつか・・・。数は少ないなぁ。
深川 私も他に良いブログがいろいろあるのはわかっているけど、あまり見ていないというか・・・。情報って見ない権利もあるじゃないですか。日本カメラとアサヒカメラとか最小限で、プラス面白そうな写真展を見るくらいにしている。
「現代鉄道写真研究所」は始めてまだ2年だが、すでに記事の数は400を越えて継続中だ。レイル・オンのブログとしての体裁やカラー、個性といったものが、この2年の間に次第に形作られ、定着してきたように思っている。お陰様で安定したアクセス数もずっと続いている。ブログはひとつだが、書き手は6人。各メンバーの間には、ブログというメディアを通じて発信していくことへのさまざまな考え方がある。
深川 ブログで見たものを写真展や印刷で見たこととかありますか? ブログ(モニターの画面)の中で見ているものが本当に写真の真価をちゃんと見ているのかどうか? と考えるときがある。自分は大伸ばししたプリントの質感が大事というか、そういう価値観でいるのでプリントを重視しているが、もしかしたらモニターの画面で見たほうが良い写真もあるかもしれない。
梅村 写っているものが凄ければ、紙であれWebであれ評価されるのでは?
伊勢 以前はいいのが撮れるとプリントしていたけど、ブログを始めてからはすっかりプリントしなくなった。逆に紙のよさを感じなくなってしまった。何故だろう? ブログではモニターの画面で見るために画質調整をしているし、それが前提だからかもね。
梅村 紙で見るための調整はしないの?
伊勢 そういう気持ちになれず、パソコンの小さい画面にスケール感を出すことに専念している。
太和田 昔は紙焼きのビンテージプリントにこだわっていたが、今はモニターの絵で十分感動できる。特に透明感のある作品なんかはモニターで鑑賞するほうに軍配が上がるでしょうね。
梅村 あれだけ暗室作業にも力を入れてた太和田さんがそう言うのは意外ですね。でも私も、物を増やしたくないので(笑)極力出力しない。
服部 僕は逆にプリントが増えた。写真はやっぱり「紙」だね! という気持ちがあるので、いい写真ができるとPhotoshopで丁寧に現像してせっせとプリントする。ブログも楽しいけど紙に対する愛着は深い。
伊勢 どうしても紙焼きに意味を見いだせないんだよなぁ。
濱島 当初からブログに全面同意していない私としては、皆さんとはベクト
ルがちょっと逆で、Web上でスクロールされ、流れるように見られることに抵抗があります。それは、以前のように写真展会場で鑑賞してもらうのとは、ずい
ぶんとかけ離れていて、作品としての扱いが低下してしまうように感じてしまうのです。やはりどこまでいっても、レイル・オンの写真は鑑賞作品だと思って
て、PCモニターやスマホでは浸れないんじゃないかって。
太和田 いろいろあっていいんじゃないかな。ポラロイドのままとか、ベタ焼きで見たほうがいいときもあるし、そんなに大きさは関係ないのかもしれない。自分はブログ上のあの大きさで、箱庭的に見て、見栄えがするように心がけている。
深川 そういう意味ではブログ用に作品を作るというのもあるのかなあ、と考えるときがある。それぞれの思いがあって成り立っているしね。
服部 僕はブログだからといって、意識して写真撮ってることは全然ないけど、ブログと写真展ではメディアの性格が違うので、それぞれに合った作品を使い分けているということはあります。まぁ僕は、ブログは読み物というのを、ひとつのスタンスとしている。写真は大きさ、見せ方まで含めて作品の一部であり、どういう形で見られるかわからないWebは、本当は大きくして細かいところまで見てもらいたい写真でも、スマホの小さい画面で見られたり、出し手の想像を越えたところにある。しかし文章とか文字は紙でもモニターでも変化ないので、読み物的なものがブログにはいいかなと思って、旅行記をひとつの自分の基準にしている。もし何年後かに写真展をやることがあれば全然違うものを出すと思う。
深川 服部さん普段はブログじゃない写真展や印刷にむけて、撮り分けているんですか? 機材は一緒ですか?
服部 はっきりと意識して取り分けているわけではないけれど、フイルムで撮ったものはブログには使わないし、写真展をやることがあれば、その効果を発揮できる銀塩写真を出すと思う。ブログについては否定的でもなく、けっこう楽しんでもいるし、写真をおろそかにしていることはないが、方法論として作文というのを柱にしているということですね。
梅村 私が出している写真はデジタルでなければできないことだし、出来としてはブログだからこのへんで許して、という甘えも少しあるかなあ。
服部 それは作品のクオリティの上下ではなくて、メディアの性格の違いだと思う。梅さんの場合は甘えというのとはちょっと違って、ブログというものの性格だと思う。
次回3日に続きます
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