港町の白いクリスマス 深川俊一郎
列車から降り立つと、函館駅前は、既に白く煙っていた。
街頭スピーカーから流れるクリスマスソングの波が途切れるように、子供たちの募金の掛け声が響き渡る。
暖房の効いた市電に乗ると、ホッとして鼻が緩んでくる。陽の陰った海岸通りを進むと、雪と氷で車体がふらつくのが分かる。
坂道の麓にある電停で降りて、雪に埋もれた歩道を小股で歩いてゆくと、道端のささやかなツリーやオーナメントが歌いかけてくる。
お目当ての場所は八幡坂。私が一番好きな坂だ。坂道の向こうの港に、かつての青函連絡船がよく見える。私が一番多く乗った摩周丸だ。
風雪が強くなると、一気に体が冷えてくる。風速1mで体感温度は1℃下がるというから、きっと今はマイナス10℃くらいの感じだろうか。
思わず坂の途中のお洒落なカフェに逃げ込んだ。かじかんだ手に温かいココアが嬉しい。
日没後、まだ群青色の余韻が残る頃、そろそろイルミネーションの光が灯るはずだ。その僅かな時間帯が見たくて坂の上に立つ。
遠くの街並みが吹雪で少し霞んできた頃、坂道の並木が瞬く間に光で踊りだす。望遠レンズを付けると、ファインダーの向こうの摩周丸も華やかな光に飾られている。
そして風に乗って、大きく長い汽笛が響いてきた。
寒いけれど少し温かい気持ちになる。
やはり来てよかった。
函館市電 HASSELBLAD 201F Distagon CF 50mmF4 T*・Sonnar C 250mmF5.6 T*
Vol.538
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