鉄道の日によせて ザクセンの小さな鉄道2 デルニッツ鉄道(下) 服部一人
森を抜けてテイルハイム駅に可愛い汽車がやってきた。機関車と合わせた古典客車も美しい。
ナローゲージの混合列車。昔々の軽便鉄道の風情満載の実にいい演出。21世紀の今、こんな鉄道情景が見られるのは眼福ということにつきます。
最新の超古典蒸気機関車 ⅠKタイプ No.54
この日は普段と違うイベントディなので、特別な機関車が走ります。このグリーンの塗装も凛々しいNo.54、ⅠKタイプと呼ばれる可愛らしいCタンクがその主役です。これはザクセン王国時代の1881~1892年にかけて総数40両あまりが作られた超古典機です。しかし、このNo.54はちょっと別格。最新のⅠKタイプ、2009年製造です。
どういう事情かというと、まったく1から新しく製造した精密なレプリカということです。古い蒸気機関車を動態保存するための修復はたいへんな手間とお金がかかります。古い部品などは修理しても耐久性や精度に問題があることも多く、それゆえ大がかりなレストアをほどこす時には、現代の技術と材質で作られた最新の部品に丸ごと交換してしまうこともしばしばあります。こういう考え方を突きつめていくと、いっそ、始めから新しく機関車を作ってしまえばいいじゃないか、という話になります。何も古い部品を苦労して整備するより、図面が残っていれば新造しようということです。こうして外観は昔のままを正確に再現しながら、「新品」の蒸気機関車ができるのです。
このNo.54は、ザクセンのナローゲージ誕生125周年記念の大プロジェクトとして2009年にドイツのマイニンゲン蒸気機関車工場で新造されました。先ほど精密なレプリカという言葉を使いましたが、実際にはレプリカではなく、これは2009年製造の本物の「ⅠKタイプ蒸気機関車」です。100年以上前のオリジナルのⅠKタイプの最終ナンバーがNo.53だったので、それからはるか1世紀以上の時を経て、新たにNo.54を名乗ることになったのも、この機関車がレプリカではなく「本物」であることを物語っています。総工費は100万ユーロを超えたそうです。1億2,3千万円ですか、たいへんな代物ですね。
この周辺のザクセンのナローゲージ鉄道が共同で使用する形のようで、製造以来、あちこちの鉄道の特別運転日にかり出されてアイドルとして大活躍です。古典機を新しく製造するとは、何と贅沢で豪勢な話ですね。保存鉄道王国ドイツならではです。
こちらがⅠKタイプ No.54のお姿。日本的センスからすると、これくらいの大きさが軽便鉄道っぽさがあって実に好ましいです。運転室の後部下端がゆるやかなカーブになっている造形も美しいですねぇ。燦然と輝く側面の銘板には2009という数字があります。
デルニッツ鉄道など、現代のナローゲージは密着型の連結器を採用しています。このNo.54は細部まで完全に当時のままなので、連結器も古いタイプ。したがって列車を牽引する時には今の連結器とつなげられるアダプターを使います。
ミューゲルンの車庫の前で、給水と火床整理をして次の出発準備をするNo.54。こういう何気ない情景も絵になります。100年前のことを彷彿とさせる風景です。
終着グロッセンに進入する列車。この左手の採石積み込みのホッパーが美しい。現役時代を思わせるいい感じで残してあります。これも実は保存鉄道、600ミリのトロッコです。こちらのトロッコもまたナローゲージ数寄者には感涙もののすばらしさ。後日、あらためて紹介します。
草原を行く小さな汽車にオープンデッキの客車。線路脇の木立の影が列車にかかる。軽便鉄道ですなぁ。いい情景です。言うことありません。
空荷の貨車を引いて軽快にとばすNo.54。サイドビューが美しい。
この手の保存鉄道のイベントディには、往々にして自動車などの乗り物も展示されることがある。鉄道ファンと車ファンは多少オーバーラップする部分があるのだろう。僕も古い車などは大好きです。
東独時代のクラシックトラクター。すべて自走できます。No.54の先にいる赤いキュートなバスは、やはり東独時代の1974年から作られたROBUR LO 3000 というミニバス。ボディの広告からするとオーシャッツの鉄道模型店の所有のようです。
イベントディの夕方、仕業が終わった汽車が車庫の前に並んで撮影会です。ちょうど西日がいい具合にあたります。当日火が入っていなかったもう1両のザクソンメイヤー99 1561も車庫の中から出てきて勢揃い。最後はDLの前で運転手やスタッフの記念写真。皆さまご苦労さまでした。おかげさまでたいへんいい一日を過ごしました。ありがとう。
CANON EOS 5DMkⅡ, EF70-200/4L, Makro-Planar50/2 Distagon35/2
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コメント
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ちょっと撮影に出てたので遅レスで失礼します。
バック運転のサイドヴュー流し撮り、、、うっとりしますねえ。 このカマは2回ほどお目にかかったことがあるのですが、つい興奮して?普通の斜め前写真が精いっぱい。
連結器のアダプターは気がつきませんでした。
投稿: あまらぼ鍋屋町 | 2015年11月 4日 (水) 21時44分
あまらぼ鍋屋町さま、こんにちは。サイドビューの流し撮りの時は、キャブの運転士も気持ちよさそうに風に吹かれている姿が印象的でした。この№54は可愛らしいので気に入りました。またほかの鉄道で走る時には撮影に行きたいものです。
撮影に出られていたということは、ひょっとして遠出ですか? またブログを楽しみにしています。
ザクセンの小さな鉄道は、このあとおなじみのザクセンの蒸気鉄道をいくつか取り上げたあと、チェコのリベレツ、ハンガリーのブダペストと続きます。お楽しみに。
投稿: ハットリ | 2015年11月 4日 (水) 23時18分