ザクセンの小さな鉄道5 フィヒテルベルク鉄道 服部一人

当鉄道最大のハイライト、クアオルト・オーバーヴィーセンタール駅手前の鉄橋。誰でも撮るお立ち台だが、たしかにいい場所。この日は待っているうちに次第に霧が深くなり、やがてあたりは真っ白に。やれやれどうしたものかと心配したが、列車が来る頃には、この程度までは回復してホッと一安心。

もうひとつの有名お立ち台、クランツァールを出て少し行ったところの美しいカーブ。ちょうど夕方の西日が当たる頃できれいに編成が撮れた。背景の山の向こうに、今は廃墟となった工場の煙突が見える。
フィヒテルベルク鉄道のDBとの接続駅はクランツァール。特に観光地があるわけでもない、チェコ国境に近い静かな小さな山あいの町だ。ドレスデンから列車を乗り継ぎ、ガランとして人気のないこの駅のホームに降りた。あたりを見渡せば側線が何本もある広い駅構内だが、活気がなく静かで、ところどころに留置車両が打ち捨てられたように点在している。少し離れたところには、もう操業をやめて久しいであろう工場が廃墟のようになって、大きな煙突がモニュメントのように残されている。
ドイツの旧東ドイツ側、社会主義体制をかつて維持していたエリアを旅していると、このような風景をよく見かける。私はこの寂寥とした雰囲気が好きで、見かけるたびにせっせと写真を撮っている。窓ガラスが割れ、レンガ造りの壁にはペイントで大きく落書きが書かれ、ところどころ屋根も落ち骨組みが露出しているといった風情だ。社会主義時代にはそれなりに盛業していたのだろうが、時代が変わり体制が変わって競争力をなくしたのだろうか。今まで紹介したザクセンのナロー鉄道も、かつてはそうした工場の貨物輸送を担っていた時代もあった。ナローと標準軌の線路が交錯する広い構内は、昔の繁栄の名残である。
お目当ての蒸気列車が来るまでにはまだ少し時間があったので、広い構内を散策してみる。今は無人駅だが、レンガ造りの大きな駅舎、ホームにいたる地下の通路の薄暗さ、古ぼけた木の窓枠、もう使われていない腕木式信号機、ナローと標準軌の貨物を積み替える側線の少し錆びた車両たち。だだっ広い構内には濃厚に東ドイツのかつての雰囲気が残っていて、今まで見たなかでも第1級の物件である。
前置きが長くなったが、しみじみした雰囲気に浸っているうちに彼方で汽笛が聞こえ、おなじみの1E1タンク機関車がバック運転で長い客車を引いて入ってきた。死んだように静かだったホームに人の声が戻り、汽車の煙と暖かさが、それまで無人の映画のセットのようだった風景を現実の世界に引き戻した。
乗車して、とりあえず終点のクアオルト・オーバーヴィーセンタールを目指す。クランツァールを出た列車は住宅街の市街地を抜け、なだらかな丘陵地帯をカーブしながら進んでいく。
途中駅のノイドルフをすぎたあたりから列車は森の中に入っていく。いくつものカーブを繰り返したあとに少しひらけた谷筋にでる。車窓すぐ左手に小川が見えるが、これがチェコとの国境だという。いつも思うことだが、ナローの小さな客車の座席でコーヒーでも飲みながら(ビールでもいいけど)、流れゆく車窓風景を眺めているのは、のんびりした楽しいひとときだ。見知らぬ外国の風景であっても時になぜか懐かしく、飽きることがない。
始発駅のクランツァールは晴れていたのに、終点クアオルト・オーバーヴィーセンタールが近づく頃にはすっかり曇ってしまった。どんよりとして冬のような重たい雲の空だ。気温もだいぶ下がってきた。終着クアオルト・オーバーヴィーセンタールに到着した時にはあたりは霧が出て遠くがかすんでいた。ホームに降り立つと肌寒いを通り越して、かなり寒い。吐く息が白いくらいだ。ここの標高は約900メートル。もう山の気候だ。
次の列車を駅手前の有名な鉄橋で撮ろうと思うが、まだ時間がある。外で立っているにはつらいくらいの寒さになり、駅の待合室に戻って時間つぶしをする。今日は山に行く格好をしていない。平地の撮影スタイルだ。ちょっと油断したかな。
クランツァールで出発を待つ列車。
山から下りてきてクランツァールに進入するところ。右手に見える標準軌はDBの線路。
クアオルト・オーバーヴィーセンタールで一休みの機関車。おなじみの1E1タンク。
クアオルト・オーバーヴィーセンタールに向かって霧の中を力行してくる列車。かなりゆっくりした足どりで登ってくる。
途中のノイドルフで列車交換。

クランツァール駅全景。中央のDBの線路をはさんで左にナローのホーム、右に貨物の積み替え施設がある。左右ともに標準軌とナローの線路が配線され、平面交差もある興味深い構内。DBの線路はさらに進んでチェコとつながっているが、現在はこの駅が終点でチェコに向かう列車は運転されていない。
構内のあちこちに古びた、味わいのある風情が点在している。
フィヒテルベルク鉄道 現地のガイド アクセス
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フィヒテルベルク鉄道は今まで紹介した鉄道に比べると、ややアクセスが悪い。ザクセン州南部のチェコ国境地帯にあり、大都市からも離れている。ドレスデンからだとまず快速(RE)か普通列車に乗ってケムニッツを目指す。これがだいたい1時間半くらいかかる。そのケムニッツか、または少し手前のフローアという駅でクランツァール行きの普通列車に乗り換えて終点がクランツァールである。これも約1時間少しかかる。このローカル線は山沿いの渓谷をたどりながらいい景色の中を走るが、列車本数が少ない。時刻をよく調べて接続のいいようにしないと思わぬ時間を食ってしまう。率直なところドレスデンやライプチヒから鉄道で日帰りで訪れるには不便である。レンタカーの方が効率がいいだろう。
クランツァールは無人駅。駅周辺にはお店や食堂はない。終点のクアオルト・オーバーヴィーセンタールは冬のスキーなどで有名なウインターリゾートである。町にはホテルやレストランはあるが駅の周辺にはあまりお店がなく、駅構内にも小さな食堂が1軒あるのみだ。鉄道撮影が目的なら水と食料は持参していった方が無難。
フィヒテルベルク鉄道は全長17.3キロ。軌間750ミリのナローゲージである。終点のクアオルト・オーバーヴィーセンタールに向かって上り勾配が続く。機関車も正向きなので、撮影にはこちらがおすすめ。山から下る列車はバック運転となる。1日6往復で全列車蒸気牽引である。ここはウインタースポーツのために冬にお客が多く、夏に次ぐハイシーズンとなっている。そのため中間となる秋頃や春先には列車本数が半分程度に減る期間がある。鉄道の経営はザクセン蒸気鉄道会社というところで、前回までに紹介したレスニッツグルント鉄道やヴァイセリッツタール鉄道も同じ会社の経営。(ホームページはこちら→http://www.fichtelbergbahn.de/aktuelles/ )
おおざっぱに言ってクランツァールからノイドルフあたりまでは丘陵地帯と住宅街。そこから森になり、やがて開けた森林地帯を行き、終点クアオルト・オーバーヴィーセンタールに到着する。撮影ポイントとしては写真にもあるクアオルト・オーバーヴィーセンタール手前の鉄橋が一番有名。四季を問わず、ここで撮られた写真はよく見かける。駅のすぐはずれなのでアクセスがいたって楽。鉄橋自体も上り勾配なので、力行運転でやってくる。遠くの谷筋を走っている時から煙が見え、ドラフトや汽笛が聞こえるので長時間楽しめる。
もうひとつのクランツァールを出てすぐの丘陵地帯の大カーブも有名な場所。こちらは駅から徒歩20分くらいか。気持ちのいい編成写真が撮れる。
(2015年9月現在)
CANON EOS 5DMkⅡ, EF70-200/4L IS, Makro-Planar50/2, Distagon35/2 VOL.719
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