ザクセンの小さな鉄道7 ムスカウ森林鉄道(上) 服部一人
森の向こうから盛大な煙を巻き上げて可愛い汽車がやってくる。大きさに似合わず激しいブラスト音でこちらに迫ってきた。
しばらくごぶさたしてしまいましたが、「ザクセンの小さな鉄道」続けます。今回からご紹介するのはムスカウ森林鉄道。ポーランドとの国境にほど近いザクセン州東部にあります。
今回の旅では、連載の最初に紹介したデルニッツ鉄道と、このムスカウ森林鉄道がもっとも期待の高い訪問先でした。ともにイベントのある日に訪問したので通常の運行より列車本数が多いのもうれしいのですが、このムスカウ森林鉄道は日本の軽便鉄道の雰囲気にとても近いのが最大の魅力です。今まで紹介したザクセンの鉄道は750ミリ軌間で、たしかにナローゲージですが、機関車も大きく、日本の在来線の小型SLを見ているのとそう変わらない感じです。しかしここはゲージが600ミリ。正真正銘の「軽便鉄道」です。
始発駅のヴァイスバッサーに来てみると、ホームには客車をしたがえて出発を待つD型テンダーが煙を上げています。これだけでも来た甲斐があったというものだけど、さらにその横には、これまた可愛い小型DLが2台並んで出発の準備をしています。軽便鉄道全盛時代を思わせる活気ある風景です。本日はあいにくと朝から冷たい雨が降りしきる、かなり肌寒い日だけど、最初にこういうものを見ると、いやが上にも気分は盛り上がります。
イベントディだけあって、駅の周辺にはドイツでは欠かせないウルスト(ソーセージ)やビールの屋台。小さな遊園地もでています。特設ステージでは小雨の中、ブラスバンドの演奏会もあって、駅周辺は楽しい雰囲気です。
ほかにも模型店や本屋の出店もあり、その筋の人にとっては撮影以外にも気になる物ばかりですが、いわゆる鉄の方々はそれほど多くはない印象。お客は家族連れが多く、のんびりと会場を散策して、乗車を楽しんでいる様子です。せっかくのイベントディが悪天候で、人出がちょっと少ない感じが残念ですが、まぁ、僕は1人で最初から舞い上がってましたね。
始発駅ヴァイスバッサーの3台並び。ゆるやかなカーブを描いてホームがあり、駅構内は割と長い有効長を持つ側線が何本もある。かつては長大なナベトロ編成の列車が行き交っていたのだろうか。
SLとともに並んでいたDL2台がこちら。奥の凸型キャブのB型は運材台車を連結し、手前のロッド式のC型は林鉄風の小型客車との組み合わせがお似合いです。僕くらいの世代だとこういう風情はすぐに「きそしん」を思い出してしまいます。どちらも実に可愛いですね。
ヴァイスバッサー駅構内。ナベトロが並び、奥には機関庫がある。
本日火が入っていた汽車をご紹介。まずは唯一のテンダー機99-3462。2軸の可愛いテンダーを持つD型機。
元ドイツの鉄道連隊のDタンクが重連で登場。
鉄道連隊のDタンクのうちの1両、99-3317は、この日、終日運用に入っていた。1918年ボルジッヒ製。
もう1両のタンク機は、やはりD型の99-3312。こちらもボルジッヒで1912年製。
SL列車の合間に、このような運材列車も走る。いい演出ですねえ。
Canon EOS5DMkⅡ, Makro-Planar50/2, Distagon35/2, EF70-200/4L IS
ムスカウ森林鉄道 アクセスと現地ガイド
ムスカウ森林鉄道は観光客相手に運営する保存鉄道である。しかしその規模や活動は鉄道ファンも納得する充実した本格的なものである。
ムスカウ森林鉄道を訪れるには、ベルリンかドレスデンから行くのがいいと思う。いずれの都市からも鉄道利用で2時間半くらい。僕はドレスデンから出かけた。ドレスデン中央駅からTRILEXという会社のゴルリッツ行きのDCが出ている。
TRILEXというのは、この地域を走るローカル線。日本でいう第3セクターといった
感じだと思う。5年ほど前にこのあたりを訪れた時にはDB(ドイツ鉄道)の1路線だったが、合理化のためか今回は第3セクター化されていた。現在DBでは
地方のローカル線をこのように第3セクター化する例が増えているように思う。
TRILEXに乗って終点のゴルリッツまで。列車は各停が1時間に1本程度、快速が2時間に1本程度出ている。所要時間は各停が1時間40分くらい、快速が1時間20分くらい。ゴルリッツで東ドイツ鉄道(これも第3セクター)のコットブス行きに乗り換えて約30分でヴァイスバッサーに到着。こちらも列車本数は多くないが、おおむねドレスデンからの到着時間にあわせたダイヤになっている。
僕はユーレイルパスを使用したが、これらの元DBで今は第3セクターになっている鉄道でもパスは有効だった。ジャーマンレイルパスもおそらく同様の扱いだと思う。
ほかにもドレスデンからDBでコットブスまで行き、そこから東ドイツ鉄道に乗り換えてヴァイスバッサーを目指す方法もある。所要時間はあまり変わらない。またベルリンからもやはりコットブスまでRE(快速列車)で向かい、あとは同様の方法でヴァイスバッサーに向かう。
ヴァイスバッサー駅に到着した東ドイツ鉄道のDC。低床式のスマートな車両です。
これが東ドイツ鉄道のヴァイスバッサー駅。レンガ作りの重厚な駅舎ですが、現在は無人駅。駅舎内はこの地域の資料館のようになってました。
ムスカウ森林鉄道の始発駅ヴァイスバッサー(正式名称はヴァイスバッサー タイヒシュトラーゼ)駅は最寄り
の東ドイツ鉄道ヴァイスバッサー駅から少し離れたところにある。駅前の道をまっすぐ通りに沿って歩いて、しばらくして町並みが途切れたあたりにロータリー
がある。これをさらに直進すると左方向に分かれる道がある。案内板に沿ってそちらに歩くとやがてムスカウ森林鉄道のヴァイスバッサー駅に到着。徒歩15〜20分といったところか。
ムスカウ森林鉄道は、名前は森林鉄道となっているが、いわゆる日本で想像する林鉄とはやや趣がことなる。山に分け入り、植林された木材を伐採して運び出すというためではなく、このあたり一帯に広がるレンガの原料となる粘土(沿線には今は廃墟となったレンガ工場もある)や、ガラス原料、石炭などを運び出す目的で利用され、実態はドイツ語のフェルトバーン(こちら→http://blog.rail-on.com/2015/12/6-3aa2.html )に近い鉄道だ。
1970年代後半まで現役だったようだが、その後廃止になった路線を80年代に入ってから保存団体が買い取って運営している。列車運行は3月後半から10月初旬くらいまでの間の週末を中心に年間約60日程度。通常はDLが客車を牽引し、年間20日ほど蒸気機関車の運転がある。(ホームページはこちら→http://www.waldeisenbahn.de/en/ )
この日は「森林鉄道祭2015」と名付けられたイベントディ。ヴァイスバッサー駅に張り出された時刻表は左が出発で、右が到着時刻。10時から19時までずらりと並んだ列車本数は通常よりはるかに大増発。全列車蒸気機関車牽引です。
起点はヴァイスバッサー(ヴァイスバッサー タイヒシュトラーゼ)、次のミュージアムという駅には大きな機関庫があり、コレクションの機関車たちが大量にしまってある。ここから先、路線はふたてに分かれ、一方はクロムラウまで。もうひとつがバート・ムスカウまでのびている。クロムラウまでは約3キロ、バート・ムスカウまでは約7.8キロある。沿線は山深い場所ではなく、森や草原の中を走る。平坦で大きな勾配もない。 (2015年9月現在)
VOL.765
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