鉄道の日によせて 「ルトミエルスクへの旅」 服部一人
終点ルトミエルスクの手前、田舎電車の風情満点。これが見たくて、はるばるここまで来た!
電車が少し新しいのが残念だが、路側軌道としてはすばらしい風情がある。ルトミエルスクへ行く43系統は途中から単線になる。
この夏、ポーランドの田舎町にトラムを見に行ってきた。
場所はポーランド第2の都市ウッチ(LODZ)の西、郊外の小さな町、ルトミエルスク(LUTOMIERSK)というところ。トラムといってもインターアーバン的な路線である。お目当ては路側軌道。昨年、チェコのリベレツの路側軌道(こちら→http://blog.rail-on.com/2016/05/9-5433.html )を訪問して以来、このローカル線とトラムの中間のような魅力にはまってしまった。
そもそもは、もう数年前だったか、レールマガジンのブログ「編集長敬白」で紹介されていたのだが、その時は写真はなく、この路線の雰囲気がすばらしいという記事だけだった。たしかにグーグルアースで見ると田園地帯を走る、なかなかいい感じの路側軌道である。以来、訪問を夢想しつつも、あっという間に数年の月日が過ぎていった。
今回はヨーロッパのほかの場所に取材に行く旅である。しかしながら、どうしてもルトミエルスクが気になって旅の最初にちょっとだけ立ち寄ることにした。取材の予定を何とか調整して、ウッチでわずか1泊、ルトミエルスクは数時間の滞在という強行軍ながら、とにかく見に行くだけ行ってみようという気持ちになった。
日本から中東のカタール航空でドーハ経由、半日以上の乗り継ぎ時間をつぶし、翌日やっとこさポーランドのワルシャワへ到着。空港からすぐにワルシャワ中央駅へ向かい、電車を乗り換えてウッチへ。今回はドイツとポーランドで使えるレールパスを持参したのだが、このパスはバリデーションといって、最初に使用する前に日付のスタンプを押してもらわないといけない。駅の窓口に行ってやってもらえば、実質数分もかからない作業なのだが、ワルシャワ中央駅で窓口を探すと、どこもかしこも行列である! ポーランドはもう社会主義はとっくの昔にやめたはずだけど、この行列を見ると、なんだか昔懐かしいような風景である。
じたばたしてもしょうがない。おとなしく行列の1つに並んでやっとスタンプ。ものの1分もかからなかったが、並んだ時間はその15倍くらいか。ウッチまでは電車で2時間ほど。列車に飛び乗る前に買ったサンドイッチを食べながら車窓の景色を眺めていると、ここまでの道のりをふと振り返り、いよいよウッチだ、ルトミエルスクだと気分が高揚してきた。
翌日、朝早くにホテルを出て、昨日下見しておいた近所の電停まで急ぐ。ここには最新式の券売機が設置されている。ポーランド語以外に英語表記もあり、紙幣もクレジットカードも使える。昨年、切符1枚買うのに苦労したリベレツとは大違いだ。これで1日乗車券を買う。さあ、目指すは43系統ルトミエルスク行きなのだが、乗り換えないと行けない。路線図をよく見ながら、来た電車に乗ってふたつめの駅で下車。ホームを移動して43番の乗り場に行く。
ルトミエルスクは実はなかなか行きにくいところである。ここから終点まで片道約1時間。しかも1時間に1本しか電車がない。ウッチの市内はフリークエントサービスでそんなに待つことはないのだが、さすがに田舎町に行く電車は手ごわい。待つこと20分、やって来た43番は旧型の連接車。思わず顔がほころぶ。ウッチのトラムはすべて低床車か比較的新しい車両を使っているのだが、この43系統だけが古い丸っこい電車をいまだに使っている。
のんびりと電車にゆられて約1時間。路側軌道もすばらしいのだが、終点のルトミエルスクとひとつ手前のカジミエルツ(KAZIMIERZ)間だけが道路からまったく離れ、田園の中を走り、小さな鉄橋もあって、ここだけ沿線で雰囲気が少し違う。それはそれは、実に好ましい田舎のローカル線の風情があって、いっぺんで気に入ってしまった。そんな田園地帯をちょっと走って、終点ルトミエルスクは小さな町の広場に電停があった。
終点ルトミエルスクは広場の中心が小さな公園になっており、そのまわりをぐるっとループしていく。
ルトミエルスクとひとつ手前のカジミエルツ(KAZIMIERZ)間はこんな感じ。赤さびた電柱に夏草で線路も見えず、廃線跡かと思うほど。こういう風景は僕のツボにはまります。線路脇には生活道路ができており、1時間に1本の電車よりも、こちらを通行する人の方がよっぽど多い。
小さな鉄橋。
乗車中に途中のブルス(BRUS)電停に実にシブイ車庫があるのを発見。帰路立ち寄る。ここも草むした構内で、あちこちにおもしろそうな事業用車が置いてあって興味津々。
ルトミエルスクは思ったとおり、のどかでいいところだった。ここは別に観光地でもないので、電車ファン以外の外国人が訪れることはまれであろう。僕もこの趣味をやっていなかったら、おそらく一生来ることはなかっただろう。
以前にも書いたことだが、汽車がいるとか、珍しい電車が走っているとか、すばらしいローカル線だとか、ただ、そんな理由だけでこれまでにも外国のなんでもない田舎の町をいくつも訪れてきた。ここもそのひとつだ。本当にわずかな時間の滞在ながら、しみじみと心に残る、味わい深い鉄道情景だった。
ウッチのトラムはメーターゲージで市内はこんな感じ。路線長は100キロをこえる大規模なもので、これはメーターゲージのトラムとしてはヨーロッパ最大級だそうです。
CANON EOS 5DMkⅡ, EF70-200/4L IS, Makro-Planar50/2, Distagon35/2 VOL. 882
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