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2025年6月24日 (火)

さらばコンタックス  深川俊一郎

私の今の作画スタイルは、6×6判に特化しています。銀座と札幌で開催した根室本線の写真展は、その集大成ともいえ、スクエア画面とフィルムの表現性を最大限活かしたものと自負しており、多くの方々から共感のお声も頂戴しました。それをはたしてあっさり変えてもいいものか、本当に悩ましいところです。
私の機材歴(フィルム歴?)の主たるところは、今から20年以上前、2000年代に入った頃に、35㎜判のコダクローム(主に25)から、6×6判のハッセルブラッドに移行しています。高画質な外式リバーサルフィルムであるコダクロームの終焉に伴い、画質を落したくなくて、面積の大きいブローニーを選択したわけです。それとは別に、中学生の時に祖父のローライフレックスを譲り受けており、6×6判との付き合いはもう50年になるのです。

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黄緑萌ゆる
長いトンネルを抜けたかと思うと眼下が急に開け、悠然たる川の流れを鉄橋で渡る。車内では驚きの歓声が揚がる‥
これは、望郷-只見線(写真展1999年・写真集2001年)で発表した作品。次の作品と比べて欲しい。
只見線 会津桧原-会津西方 CONTAX RTSⅢ Planar 85mmF1.4 T* KM

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黄緑萌ゆる
本来捉えたかったシーンが、実はこちら。そのために6×6判のローライも携行していた。
神秘的ともいえる奥深い山峡の鉄路と、深緑の濃密さを表現するのに、スクエア画面は必須であった。望郷-只見線でこちらを発表したかったが、統一性に欠けるということで、あえなく却下となった。
只見線 会津桧原-会津西方 ROLLEIFLEX V Tessar 75mmF3.5 T PKR

機材を見直す機会に直面した時、それは断捨離の絶好のタイミングでもあります。
35㎜判は、学生時代のミノルタ(XE・XD)は既に処分しており、次のコンタックス(RTSⅢ・S2b・T3)は一線から外れた後も、大切に(月1回動かしながら)保管していました。しかしながらフィルムを通さなくなって10年以上が経過し、今回思い切って処分することにしたのです。
道具としての愛着は理屈ではありませんが、現実には6×6判と比較してその小ささ(物理的にも画質的にも)に、二度とフィルムを入れることはないと確信し、決断したのです。特に物理的に小さいことが、ファインダーを覗いて作画とピントと露出に神経を集中させるには、今の私の目には辛いのが正直なところなのです。そして市場で需要があるなら、次のオーナーにフィルムを通してもらった方がよいとの決断です。

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CONTAX RTSⅢ(右) バキュームによるフィルム面安定化など、当時の最高技術とクオリティを誇った。
CONTAX S2b(左) フルメカニカルという、時代に逆行するようで普遍的な価値を世に問う機種だった。
対極のアプローチによる成り立ちながら、どちらも究極の道具といえた。

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ともにモチーフを見つめてきた8本のツアイスレンズたち。全て単焦点レンズだ。

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白原野
もう視界は閉ざされる寸前だった。白い原野に、微かに残るレールの跡があった。
3:2の比率は、広大な北海道の大地を収めるのに最適だとその時は実感した。
宗谷本線 抜海-南稚内 CONTAX RTSⅢ Tele-Tessar 300mmF4 T* KR

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荒波の向こう
気が遠くなりそうな海岸線が、荒波の向こうに揺れていた。
私にとって長いレンズの使い道は、圧縮効果ではなく、網膜に広がる大地の真ん中に点のように焼き付いた列車を表現することだ。
宗谷本線 抜海-南稚内 CONTAX S2b Tele-Tessar 300mmF4 T* KM

ズームレンズを所有したことがありません。一貫して単焦点レンズにこだわっています。より良い画質と明るさのレンズを求めたことと、単焦点レンズをカメラに着けた時その画角の眼を持ったキャラクターがカメラに生まれ、それを自分の眼の延長線上にして作品をつくるという、言わば“スタイル”なのです。
色々能書きを書いてきましたが、今のデジタルはズームも高性能で、一コマずつ感度やカラーとモノクロ、はたまたフォーマットを3:2からスクエアにと、変幻自在な訳です。そんな当たり前なことが、私には驚きです。果たしてオールラウンダーとスペシャリストの矛盾と整合はどうなのでしょうか…
いずれ表現者による作品ではなく生成AIが作成する写真が、当たり前に作品らしく出回ったら(もしかしたら知らず知らずのうちに見ているのかもしれませんが)それは恐ろしいことだと思います。それならば撮った本人の特権として写真を楽しむしかない。少なくとも思いを伝える作品としての写真は、撮った本人が心に刻んで、見る人にその思いが伝わること。何が心で何が思いなのか、そんなことまで気になってしまいますが、そこは人間同士コミュニケーションが存在する限りは普遍的なものとするしかありません。

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通り過ぎた夏
田んぼをそよぐ風が少し涼しくなると、あんなにうっとうしかった暑さが何故か懐かしい。日が暮れるまでめいっぱい遊んでいた子供達の夏休みが終わる。
夏の終わりは一年中で一番寂しいと今でも思っている。
只見線 会津水沼-会津中川 CONTAX S2b Distagon 35mmF1.4 T* KM

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帰ろうか
雪がくる前、夕空は底抜けに明るかった。
さあ、そろそろ帰ろうか。
只見線 薮神 CONTAX RTSⅢ Distagon 25mmF2.8 T* KM

T3
CONTAX T3 高級コンパクトの極み。現在の市場価値は当時の新品価格の約3倍だ。手元に置こうかとも思ったが、欲しい人に使われた方が幸せだと思い、手放すことにした。

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雪晴れ嬉し
張りつめた空気を早春の朝陽が和らげてくれた。
その頃はメインをハッセルに移行していたが、サブカメラとして携行したT3でスナップを楽しんだ。
只見線 魚沼田中-越後広瀬 CONTAX T3 Sonnar 35mmF2.8 T* KM

今やスマホのカメラ機能も馬鹿にしたものではなく、ねこや食べ物、気になった風景をメモ代わりに撮るのが日常になりました。仮にデジタル機材を入手したとして、作品づくりとメモの境が曖昧になるかもしれません。それはまた、作品の幅と奥行きが広がる可能性を秘めると同時に、そのクオリティーが下がる危惧もあるということなのでしょうか。
それでも体力や反射神経の衰えを考えるに、軽くて楽ちんで便利な方へ逃げたくなるのは仕方がないとも思っています。さて、次の機材をどうしたものか…実に悩ましい。

Vol.2004


☆写真展のご案内
昨年に続き、母校の組織である、鉄研三田会の写真展に出展いたします。(本年は大連市電を4点出展しています)
ご興味がありましたら、お立ち寄りいただければ幸いです。

2025_20250623101701 2025
第32回鉄研三田会写真展
ギャラリー路草 路(豊島区南池袋 2-25-5 藤久ビル東五号館 14F)
2025年7月10日(木)~7月15日(火)
11:00~19:00(最終日16:00迄)

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